公的年金には、65歳より早くもらい始める「繰り上げ受給」と、65歳より後にもらい始める「繰り下げ受給」が認められています。これらについて、よく「どちらが得か」「損益分岐点は何歳か」といった議論がなされます。しかし、実は、他にも考えるべき重要なポイントがあります。経済ジャーナリスト荻原博子氏の著書『年金だけで十分暮らせます』(PHP研究所)より、一部抜粋してお伝えします。
その発想はなかった!? 「年金」の「繰り下げ受給」お得な活用法【経済ジャーナリストの助言】

「繰り上げ受給」と「繰り下げ受給」、どちらがお得か

65歳よりも早くもらい始める「繰り上げ受給」では、1ヶ月早まるごとに年金額が0.4%減額されます。

 

たとえば2023年に60歳からもらい始めると、0.4%×12ヶ月×5年で65歳からもらい始めるよりも24%支給額が減ります。65歳で10万円の年金をもらえる人だとすれば、60歳でもらい始めると支給額が月7万6,000円に減るということです。

 

この場合の損益分岐点は、81歳。24%の減額は一生続くので、81歳までに死ぬと、60歳からもらい始めたほうがよかったことになり、81歳より長く生きれば、65歳からもらったほうがよかったということになります。

 

65歳より後にもらい始める「繰り下げ受給」では、1ヶ月遅くなるごとに年金額が0.7%ずつ加算されます。

 

たとえば、75歳からもらい始めると、0.7%×12ヶ月×10年で84%支給額が増えます。65歳で月10万円もらう人なら、75歳まで支給を遅らせると、75歳から月18万4,000円の年金をもらえます。

 

この場合の損益分岐点は、87歳。87歳までに死ぬと、65歳からもらい始めたほうがよかったことになり、87歳以上生きれば、75歳からもらったほうがよかったことになります。

 

[図表]年金の繰り上げ・繰り下げの損益分岐点(2023年)

支給開始年齢は「平均寿命」と「健康寿命」で選択すべき

もちろん、人の寿命は誰にもわかりません。

 

参考までに、日本人の「平均寿命」は男性が約81歳、女性が約87歳となっています(厚生労働省「令和3年(2021年)簡易生命表」)。

 

また、「平均寿命」だけでなく、「健康寿命」も考慮したほうがいいでしょう。「健康寿命」は、身体に支障がなく、健康に動ける平均的な年齢で、男性72.68歳、女性75.38歳(厚生労働省・2019年)。ですから、額は少なくても遊べるうちに年金が欲しいという人は、支給開始年齢を早めるという選択も考えられます。

 

けれども、これからは「人生100年時代」。あまり早くからもらってしまうと、少額しかもらえないので長生きしたらお金が足りなくなってしまうかもしれません。

 

それが心配なら、働き続けられるうちは働いて、年金はそれ以降にもらうという選択もいいでしょう。