昨年以降、大きな流れでは円安傾向が定着してきているなか、いまから始める外貨建てによる資産運用は、どの程度の利益が見込めるのでしょうか。本記事ではニックFP事務所のCFP山田信彦氏が、和田さん(仮名)の事例とともに、中長期的に米ドル建ての資産を一定割合保有することの意義について解説します。
30代主婦、メガバンクで貯金1,000万円を「米ドル建て投資」に…「驚きの10年後」【CFPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

日本の公的年金の5割は「外貨建て」で運用されている

日本の家計金融資産の半分以上は日本円での現預金ですが、世界最大の機関投資家の1つとも呼ばれるGPIF(年金積立金管理運用独立法人)の運用ポートフォリオの基本形はバランスよく約1/4ずつ、国内債券、国内株式、外国債券、外国株式です。

 

このことは厚生年金と国民年金の積立金管理・運用を担い、攻めと守りの両方が求められるGPIFではすでに当たり前のように日本円ベースの金融資産運用を半分程度にしていることを意味しています。

 

わが国の経常収支の構造的体質変化に加えて、GDP比2倍以上から継続的に膨張を続ける国債残高問題、さらには実質的な財政ファイナンスの副作用として日銀による本格的な金利調整能力が見通せない状況等を総合的に判断すると、今後の金融資産運用は個人レベルでも「一定割合を外貨建て、特に基軸通貨である米ドル建てにすることを意識する時代」に入ったと考えることができるでしょう。

〈メガバンク〉米ドル建て預金の利率は0.1%以下だが…米ドル建て社債の利回りは5%の衝撃

円預金より金利が高いという米ドル建て預金に興味を持った30歳代主婦の和田さん(仮名)は、口座を持つ銀行の支店で話を聞いてみましたが、その利率は0.1%以下と魅力を感じることができず、友人のFPに米ドル建て資産運用について相談してみました。

 

「店舗型銀行の米ドル預金は金利が低すぎです。おもしろいものをお見せしましょう。和田さんが話を聞いたメガバンクの米ドル建て社債をネット証券で買うことができますが、その利回りは現在でも5%前後です。もちろん預金と債券では金融商品としての性格が違いますが、同じ銀行の信用力なので私ならこちらを買いますね」

 

和田さんはFPの話に興味を持ち、さらに詳しく米ドル建て資産運用について説明を聞いて帰宅後にまとめてみました(以下、和田さんのメモから)。

米ドル資産保有手段の3つのポイント

米ドル建て金融資産を保有する場合のポイントは以下の3つです。

 

・収益性

・資産を預ける場所と仕組みの安全性

・必要時に現金化(または円転)するための流動性

 

3つのポイントをもとに外貨で資産を保有する手段について解説していきます。

 

1.外貨預金

利率でいえばネット銀行の定期預金一択。流動性の観点では仕組預金のような商品を除き、定期預金でも経過利息さえ諦めれば解約できる商品もある。一方、外貨預金は預金保険制度の対象ではないので、預け入れ先によっては安全性には問題が残る。

 

2.外貨建てMMF 

外貨建てMMF(Money Market Fund)は格付けの高い外貨建て短期証券をベースとした投資信託であり購入するには証券会社に口座を開設する必要あり。元本保証商品ではないが安全性の高い国債や企業が投資対象であり、1,000万円までは投資者保護基金の対象。

 

相対的に高利率も期待でき証券会社の営業時間内であればいつでも解約ができるため、「収益性」「安全性」「流動性」のバランスが取れた商品。

 

3.米国債と米ドル建て社債 

外貨建てに限らず、債券の利回りは「表面利率+(償還または中途売却価格-購入価格)/保有年数」で決まる。市場金利が高いときは債券の表面利率が低くても債券価格自体が値下がりして利回りが向上するのが通常。

 

タイミングよく購入して償還日まで保有すれば安定した高い利回りが確定できる一方、中途売却の損失リスクもあり。米国債であれば安全性と流動性もかなり担保されていると言えるが、一般企業の社債の場合は格付け等にも注意を払う必要もあり。

 

4.米国株式と投資信託・ETF

米国株式を購入するには証券会社に外国株取引口座を開設する必要。個別株投資に興味がなければ、米国株式のインデックスに連動した投資信託(並びにETF)を証券会社や銀行で日本円にて購入する方法もあり。

 

この場合、円建て基準価格は連動する株価インデックスと為替レートの相関で決まるので、日本円での払い込みでも実質的には米ドル資産の保有と同等に評価可能。株式なので収益性はハイリスク・ハイリターンである一方、米国株関連であれば流動性の問題は少ない。安全性の観点では、こちらも投資家1人当たり1,000万円までは投資家保護基金の対象。

 

5.外貨建て一時払い終身保険

一時払い終身保険の引受保険会社の主な運用先はその通貨国の国債や大手企業の長期債となるので、運用効率だけで考えると自ら直接債券投資すべき。

 

しかし生命保険化することにより、相続税生命保険金非課税枠(法定相続人×500万円)の利用が可能となり、安全性という意味では投資者保護基金には限度額があるなかで生命保険保護機構による責任準備金の90%保障を利用できる。

 

一方、流動性という観点では保険加入後10年以内の解約では元本割れする商品も多く、余裕資金で対応する必要あり。当初10年間は積立利率が保証され、生存給付金として増えた部分を毎年現金化できる商品もあり、現在のように高利率適用時にタイミングよく加入できれば魅力的な投資先。