シアタールームやレストラン、温泉など、まるでホテルのような「高級老人ホーム」。立地が良い施設も多く、富裕層のなかには「終の棲家」として高級老人ホームを選択する人も少なくありません。しかし、施設選びを誤ると「理想の暮らし」が一転、「地獄の日々」に……。元飲食店経営者の70歳・富裕層夫婦を襲った悲劇から「終の棲家選び」の注意点をみていきましょう。株式会社FAMORE代表取締役の武田拓也FPが解説します。
70歳の富裕層夫婦、入居費用“5,000万円”払った施設を“わずか10ヵ月”で退去…「高級老人ホーム」に潜むまさかの落とし穴【FPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

飲食店を畳み、老人ホームへの入居を決断したB夫妻

ともに70歳のB夫妻は、長年にわたって自宅で飲食店を営まれていました。30年前、開店した当初は赤字でしたが徐々に常連客が増え、口コミで新規顧客も増加。経営は順調で夫婦仲もよく、街で評判のお店となっていました。

 

しかし、新型コロナウイルスの流行により客足が途絶えてしまったことに加え、夫婦ともに高齢となったことから、今後のことを考えた2人は店を畳むことを決断しました。

 

2人の子どもはすでに独立し、それぞれに家庭を築いています。そのため、受け継ぐ人のいない店舗付き住宅は売却することにしました。自宅は大きな道路に面しており、購入してから30年のあいだに地価は大きく値上がりしていたため、予想よりも高額で売却することができました。

 

売却後は、老人ホームに住もうと思っていたB夫妻。周囲からは「まだ早いのでは?」と言われたこともありますが、子どもたちに心配をかけたくなかったことと、自宅に住み続けるとしてもそろそろリフォームが必要な時期だったこともあり、「いい頃合いだ」と考えたそうです。

 

これまで商売で忙しく贅沢もしてこなかった2人は、「いままで頑張ってきた自分たちへのご褒美として、設備が整ったところでゆっくり夫婦で過ごそう」と考え、自宅が高く売れたこともあり、設備やサービスがホテルのように充実した高級老人ホームへの入居を検討し始めました。

 

最終的に、2人は長男の自宅近くにある高級老人ホームを選びました。「なにかあれば長男夫婦がすぐに駆けつけられるように」と、長男夫婦に相談のうえその場所を選んだそうです。最寄り駅からも徒歩10分ほどの距離にあり、駅との定期巡回バスも走っています。また、すぐ近くに建つ有名病院と提携しており、通院する際も負担になりません。

 

さらに、入居の決め手となったのはその設備面です。一般的な老人ホームとは異なり、プールや温泉、シアタールーム、フィットネスルーム、レストランなど非常に充実しています。共有スペースは高級ホテルのような内装で、2人にとっては贅沢すぎるほどの理想の住まいです。

 

入居を決めてからは、施設での生活が待ち遠しい日々が続きました。

 

毎月40万円の赤字も「なんとかなるだろう」

お店をやっていたころ、B夫妻の家計収支は毎年500万円程度の黒字で、自宅を売却したあとは、その資金も含め1億5,000万円の資産がありました。前払い金(入居一時金)として施設に5,000万円を支払いましたが、約1億円残っています。

 

家賃を除き、施設入所後の月々にかかる費用は夫婦合わせて約50万円です。年金収入は夫婦で10万円ほどですから、毎月の収支は約40万円の持ち出しとなってしまいます。

 

しかし、2人の平均寿命より長い90歳までの費用を見込んでも、70歳から90歳までの20年であれば月々の収支▲40万円×20年=9,600万円と、残っている資産で賄えると計算しました。

 

しかし……。入居後に待ち受けていたのは、2人の想像とは大きく異なる世界でした。