老後のお金について解説する本連載。今回の相談者は、「年金の足しになれば」との思いから退職金を全額ワンルームマンション投資につぎ込んだ62歳のMさん。初月から家賃収入を得て歓喜したのも束の間、3ヵ月の空室期間を経験したことで、大きな不安に苛まれるようになりました。Mさんは、退職金をどのように運用するべきだったのでしょうか。アルファ・ファイナンシャルプランナーズの代表取締役・田中佑輝氏が解説します。
退職金・3,000万円で新築ワンルームマンション一括購入の62歳「年金プラス10万円」で老後安泰のはずが…陥った憂鬱のワケ【FP相談事例】 (※写真はイメージです/PIXTA)

退職前にあえて「借り入れ」を起こして不動産を購入する選択も

Mさんの場合、投資を行った62歳時点では無職だったため、ローンを組むことはできませんでした。そのため、どっと入った退職金を原資に、「年金プラス家賃収入」を手にするために不動産投資を始めました。

 

ただ、退職金を全額使った投資に新築ワンルームマンションを選択してしまったことが仇となりました。

 

不動産投資自体が悪い訳ではありませんが、定期預金や外貨預金、株式、投資信託などの金融商品に比べて流動性(現金化できる度合い)が低いため、急に資金が必要になったときや、「空室リスク」や「家賃下落リスク」が表面化したときの逃げ道がなくなりやすいのです。

 

新築ワンルームマンション投資で気をつけたいポイントは以下3点です。

 

・購入する立地を慎重に選ぶ

 

・利益が得られず売却する場合は早めに決断する

 

・退職金の一括投資はリスクが高いのでやめる

 

新築ワンルームマンションは、一人暮らしの学生やサラリーマンなど、主に単身者が利用します。そのため、そういった利用者のニーズを叶える物件を選ばなければなりません。「通勤通学しやすい路線や駅にある」「最寄り駅から近い」「物件の近くにコンビニやスーパーがあり、生活に便利」というような条件を押さえた物件を選ぶことがポイントです。

 

それでは、Mさんのように思ったような利益が得られずに、物件を売却したほうがいいのか迷うケースにはどう対応すべきでしょうか。

 

不動産投資は、長期的にコツコツと運用する投資商品です。売却する場合には仲介手数料なども発生するため、数ヵ月入居者が付かないからといって、早期に売却してしまうことはおすすめしません。

 

中には、賃貸管理会社が粗悪であることが原因で入居者が付かないケースもあるため、賃貸管理会社に物件の良さを理解させる資料を渡す、家賃や手数料の条件を変更する、賃貸管理会社そのものを変更するなどの対策が必要です。そこまでしても状況が改善されないのであれば、待っていても赤字が続くだけですから、売却を検討するべきといえます。

 

それでは、Mさんはどうすれば失敗を避けられたのでしょうか。もし、退職金をもらう前のMさんと話をする機会があったなら、筆者からは以下のようにアドバイスをします。

 

・退職前にあえて借り入れを起こして不動産を購入すること

 

・退職金は流動性の高い金融商品で運用する

 

・購入前に賃料相場と需要を調べる

 

こう聞いて、「退職前の50代でローンを組むのは心理的ハードルが高い」と感じる人もいるでしょう。

 

しかし、借り入れで不動産を購入すれば退職金3,000万円は手元に残しておくことができますし、そのうちの一部を予備現金として残しつつ資産運用をすることで運用効率が上がります。何よりも、手元に現金化しやすい資産があることは大きな安心につながります。

 

また、「一括で3,000万円」という投資方法ではなく、「いくつかの投資先に数百万円ずつ」など、投資対象を分散することもおすすめです。

 

不動産投資を行うのであれば、周辺の賃料相場や需要についての調査は欠かせません。今はインターネットを使えば、そうした情報は簡単に調べることができます。とくに新築物件を購入する場合には、築年ごとの家賃相場を確認することで、将来の家賃下落リスクも確認できるはずです。

 

退職金のような形でまとまった現金を手に入れたときは、営業マンの話を鵜呑みにするという態度は厳禁。賢い運用を行うためには、自分自身で正しい知識を身に付ける必要があるのです。