老後のお金について解説する本連載。今回の相談者は、「年金の足しになれば」との思いから退職金を全額ワンルームマンション投資につぎ込んだ62歳のMさん。初月から家賃収入を得て歓喜したのも束の間、3ヵ月の空室期間を経験したことで、大きな不安に苛まれるようになりました。Mさんは、退職金をどのように運用するべきだったのでしょうか。アルファ・ファイナンシャルプランナーズの代表取締役・田中佑輝氏が解説します。
退職金・3,000万円で新築ワンルームマンション一括購入の62歳「年金プラス10万円」で老後安泰のはずが…陥った憂鬱のワケ【FP相談事例】 (※写真はイメージです/PIXTA)

退職金で投資用ワンルームマンションを一括購入

今回の相談者は、62歳のMさん。30年間にわたって製造業に従事してきましたが、2年前に定年退職し、現在は62歳の妻、32歳の娘と暮らしています。

 

さかのぼること3年。定年を目前に控え、退職金の運用方法について検討していたMさんは、知人からワンルームマンション投資の話を聞き、強い関心を抱きました。知人の紹介で不動産営業マンから詳しい説明を受けると、「これ以上の運用方法はない」と考えるようになり、退職金は新築ワンルームマンション投資に充てることにしました。

 

新築ワンルームマンションへの投資を決断した理由は、営業マンが説明した次の2点に納得したためです。

 

・新築のマンションは入居者が決まりやすい

 

・現金一括購入なので、毎月10万円の家賃収入を老後の生活費として得られる

 

無事に定年を迎え、購入した物件は板橋区の新築ワンルームマンションの一室で、購入時の金額は諸経費込みで2,800万円強。Mさんが受け取った退職金は3,000万円でしたから、退職金のほぼ全てを投入したことになります。そうして新築ワンルームマンションのオーナーとなったMさん。「年金とは別に、毎月10万円が振り込まれる。老後は安泰だ!」と大いに喜びました。

 

しかし、喜んだのも束の間、最初の入居者はわずか1年で退去してしまいました。さらに、次の入居者が付くまでに3ヵ月もの時間がかかりました。

 

退職金で一括購入したためローンの返済はありませんが、「新築」のブランド力もなくなって家賃を下げざるを得ない中、Mさんはこのまま物件を所有し続けることに不安を感じ始めます。まだ「築浅」であるいまのうちに売却してしまうべきか、このまま所有し続けるべきか悩んでいた頃、疲れ切った表情で筆者のところに相談にきました。