現役時代に高収入で退職金を十分に受け取っていても、老後の生活が思うようにいかないケースは少なくありません。元・大手メーカー勤務のSさん(68歳)も、現役時代の年収は1,200万円で退職金は2,500万円、余裕の老後を送れると安心していましたが、結果、死ぬまで働き続けることに。一体なぜそのような事態となるのでしょうか? 本記事では、Sさんの事例とともに老後の健全なマネープランについて、FP dream代表の藤原洋子氏が解説します。
「年収1,200万円」勝ち組サラリーマン、退職金2,500万円で老後も余裕のはずが…68歳で「死ぬまで働く覚悟」のワケ【FPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

知らないと損をする…「毎月分配型の投資信託」の仕組み

(※写真はイメージです/PIXTA)
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Sさんが選んだ「毎月分配型の投資信託」は、1ヵ月ごとに決算を行い、運用の収益等の一部をその都度分配するタイプの投資信託です。

 

投資信託の値段のことを「基準価額」といいます。基準価額は一定ではなく、組み込まれている株式や債券の価格の変化によって、上昇するときもあれば下落するときもあります。投資信託を購入したときの価格のことを個別元本といいます。個別元本は、購入時や追加で購入・売却したときなどにその都度計算され、購入者ごとに異なります。

 

毎月の決算日の基準価額が個別元本より値上がりしていれば、分配金は運用収益のなかから支払われる「普通分配金」です。しかし、基準価額が個別元本より値下がりしていても分配金が支払われることがあります。その場合は、分配金は元本から払い戻された「特別分配金」ですので、その分だけ元本が減少することになります。

 

分配金の一部が特別分配金になるケースもあります。Sさんの銀行口座に振り込まれていた分配金は、特別分配金が含まれていたのです。Sさんは知らずに受け取っていましたが、基準価額の値下がりや特別分配金で、投資信託は、Sさんが購入したときの価額を大きく下回ることになりました。

老後の安心のためにいまからできること

(※写真はイメージです/PIXTA)
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Sさんの毎月の家計の状況は以下のとおりです。

 

夫婦の年金:30万円

Sさんの手取り収入:12万円

奥様の手取り収入:5万円

生活費:40万円

住宅ローン:12万円

 

上記を見ると、月5万円の赤字となっています。毎年60万円ずつ退職金を取り崩していくと、住宅ローンを完済する75歳までに、あと420万円減ってしまいます。奥様がいつまでも働けるとは限りません。マンションを購入して約30年経っているので、リフォームが必要な場所も出てくるでしょう。

 

いまからでも遅くありません。ご夫婦で協力して家計管理をしていきましょう。いままで、「なんとかなる」と考えてきたご夫婦です。生活レベルを落とすことには抵抗があり、家計をスリム化するには時間がかかるかもしれません。しかし、このままでは、そう遠くない将来に貯蓄はなくなり、最悪の場合老後破産を迎えてしまうかもしれません。

 

まずは月5万円の赤字を解消し、それができたら夫婦の年金30万円で生活できるように改善していきましょう。毎月決まって支払うお金のなかから、いまでは必要がなくなっている費用をチェックし、解約するなどできると、それだけで支出が楽に減らせます。同居している次女にも、生活費の一部を出してもらうよう話し合ってみましょう。

 

家計にゆとりができたら、Sさんは働く日数を減らし、趣味などを楽しむ時間も取れます。また、改めて投資について勉強してみてはいかがでしょうか。投資初心者にも利用しやすく、利用者数が増えているつみたてNISAという制度をご紹介しました。

 

人生100年といわれる時代です。現在の収入がずっと続くということはありません。また、資産運用にはリスクが伴い、資産を増やすつもりが減らしてしまったということも起こります。将来のイベントやそれに必要な費用を書き出して、計画的に準備して行きましょう。無理をせずできることから実行することが大切です。

 

 

藤原 洋子

FP dream

代表FP