現役時代に高収入で退職金を十分に受け取っていても、老後の生活が思うようにいかないケースは少なくありません。元・大手メーカー勤務のSさん(68歳)も、現役時代の年収は1,200万円で退職金は2,500万円、余裕の老後を送れると安心していましたが、結果、死ぬまで働き続けることに。一体なぜそのような事態となるのでしょうか? 本記事では、Sさんの事例とともに老後の健全なマネープランについて、FP dream代表の藤原洋子氏が解説します。
「年収1,200万円」勝ち組サラリーマン、退職金2,500万円で老後も余裕のはずが…68歳で「死ぬまで働く覚悟」のワケ【FPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

「先はなんとかなる」精神で過ごしてきたS夫妻

地方都市に在住のSさん(68歳)は、大手メーカーに長年勤務していました。同い年の奥様とは、35歳のときに結婚し、3人のお子様(長女32歳、長男30歳、次女29歳)に恵まれました。

 

Sさんは、当時、営業部の課長で年収は約800万円ありました。結婚してからは、2LDKの賃貸マンションで暮らしていましたが、次女が誕生して、少し手狭に感じるようになってきました。そこで、40歳のときに4,000万円のマンションを35年返済で購入することにしました。月々の返済額は約12万円です。

 

奥様は、地元の短大を卒業しデパートで正社員として勤務していましたが、次女の誕生後、しばらくして退職し、それ以降はパートタイムで家計を支えていました。長女は昨年結婚し、市内にある夫の会社の社宅で新生活を始めました。長男は大学を卒業した後、都内にある企業に就職したため、自分でマンションを借りて別に暮らしています。次女は料理教室を経営しており、現在、Sさんは奥様と次女の3人で生活しています。

 

Sさんご夫婦は、2人とも「先はなんとかなる」と考えるタイプでした。Sさんの年収は上り調子でしたので、なおさらです。真剣に貯蓄を考えることはなかったそうです。

 

Sさんは、その後も順調に昇進し、営業部長になったときの年収は1,200万円でした。しかし、58歳で役職定年を迎え部長職を外れたときには年収800万円に、60歳から再雇用で嘱託社員となってからは、年収は400万円を下回る金額に下がりました。

「退職金2,500万円があるから大丈夫!」貯蓄ほぼゼロの状態で退職したSさん

Sさんご夫婦に、貯蓄はほとんどありません。Sさんは、60歳のときに退職金2,500万円を受け取りました。

 

「2,000万円以上あるのだから、老後はこれで大丈夫だろう。年金は65歳になれば、2人合わせて30万円受け取れるんだ」

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
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退職金で「2,000万円分の投資信託」を購入

それでも少し不安になっていたSさんは、退職金を増やそうとして、銀行で担当者に勧められるままに投資信託を2,000万円分購入したのでした。Sさんは、それまで「資産運用」の経験はありませんでしたが、担当者の話を聞くうちに、興味を持ったそうです。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

Sさんが購入した投資信託は「毎月配分型」というもので、毎月銀行口座に振り込まれる十数万円の配当金をとても嬉しく感じていました。金融機関からは、運用の経過や今後の方針を記載した交付運用報告書が送られていました。Sさんは、目を通さずそのままにしていたそうです。

 

しかし昨年、分配金が少なくなっていることが気になり、担当者に投資信託の残高を確認したところ、購入当時の半分の金額になっていることがわかったのです。投資信託の額面金額は約1,000万円、退職金は増えるどころか1,500万円に減ってしまいました。Sさんは、投資信託を解約することに決めました。

 

「退職金を運用しながら、夫婦でのんびりと老後を過ごすつもりでしたが、予定が大きく変わってしまいました」とおっしゃいました。再就職をするそうです。

 

定年後の就職活動は思っていた以上に時間がかかりました。Sさんの現在の勤務先は、マンション管理サービスを行う会社です。Sさんは、マンション管理人として1年ほど前から働いています。毎月の手取りは約12万円です。年収にすると約180万円。60歳の再雇用時代よりもはるかに少ない収入であっても、会社員時代とはまったく違う仕事をこなし、「私は、死ぬまで働かなければならないのです」と、そうとう元気がないご様子でした。