現役時代は大手IT企業の管理職だったAさん。順風満帆の老後をスタートした矢先、妻の異変に事態は急変してしまいます……。一体なにがあったのでしょうか。本記事では、FP dream代表の藤原洋子氏がAさんの事例とともに、計画的な老後プランについて解説します。                        
年収1,200万円、定年退職時の貯蓄額4,500万円だった61歳・元エリート会社員…「勝ち組人生」を崩壊させた“妻の異変”【FPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

大手IT企業の元管理職…夢を追いかけ定年後の61歳で独立を決意

Aさん(61歳)は、現役時代は大手IT企業の管理職でした。同じ会社で、大学の後輩でもある妻(58歳)と結婚し、45歳のときにマイホームを購入しました。27歳と25歳になる2人の息子は独立し、隣県でそれぞれ暮らしています。Aさんと妻は、愛犬2匹とのなごやかな毎日を送っています。

 

Aさんの60歳時の年収は1,200万円で、退職金は2,200万円受け取りました。貯蓄は4,500万円の準備があります。

 

妻は子供達の塾の送り迎えや、帰宅時間が遅くなりがちなAさんの健康面を気遣って、結婚後は扶養内でパート勤務を選んで仕事を続けてきました。健康に自信があり、大きな病気とは無縁のAさんでしたので、自分は75歳までは働いて収入を得ることができるだろうと考えていました。

 

Aさんは、60歳以降は会社の定年後再雇用制度を利用し勤務していましたが、以前からの夢だった独立を決意しました。貯蓄のなかから、老後の資金1,000万円、開業資金として500万円を残し、住宅ローンの一括返済2,000万円、家族との旅行などに1,000万円を使いました。

 

65歳になると支払われる老齢年金は、Aさん約20万円、奥様約8万円です。Aさんは、2人合わせて28万円受け取れるので、Aさんと妻がパートを続ければ、これから貯蓄を増やすこともできるとも考えていました。

 

念願だった独立の準備のために、長年勤めた会社を退職し3ヵ月ほど経ったころ、Aさんは妻の様子が少し変だと感じ始めました。

順調だったはずの老後だが…Aさんの家庭に異変が

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

しばらく前からAさんは、妻が同じことを何回も聞くようになったと感じていました。人は年を取ると大なり小なりだれでも物忘れをするものだ、といままで気に留めていなかったのですが、最近では言動がおかしかったり、食事の準備に手間取ったり……ときには家のなかを歩き回ることもあります。

 

心配になったAさんは、妻とかかりつけ医を受診することにしました。かかりつけ医からは、専門の医療機関を受診するように勧められました。医療機関で検査をうけたところ、妻はアルツハイマー病と診断されたのでした。

 

「妻に対して自分はどのように応対すればいいのだろうか。妻はいずれ仕事を辞めなければならなくなる。私は妻の介護をしながら仕事を続けることができるのか……」

 

担当医は、病気や今後の治療について、丁寧に説明をしてくれました。 息子達に事実を打ち明けると心配をかけるだろうと思いましたが、いつまでも黙っておくことはできないと、話をすることに決めました。大きなショックがAさん一家に襲いかかり、Aさんも息子達もこれからどうなるのかと不安ばかりが大きくなっていきました。

 

Aさんは、平均寿命程度の年齢まで老後は夫婦そろって穏やかに過ごせるものと考えていました。妻はまだ50代なのに認知症……。貯蓄は1,000万円残しているが、足りるのだろうか。

 

妻の生命保険を確認してみると、加入しているのは医療保険とがん保険でした。介護費用をまかなうことはできません。貯金は100万円ほどありましたが、これからのことを考えると、十分ではありません。Aさんは、途方に暮れました。