3―終わりに
冒頭に述べたように、今春から、事前の予想を上回る企業の賃上げが次々と伝えられ、注目を集めている。現役世代の中には、物価高の影響が吸収される世帯も多いのではないだろうか。
勿論、非正規雇用や中小・零細企業で働く人の中には、企業側から賃上げ回答を得られていない人もいると思うが、この後、厚生労働省の審議会で最低賃金が引き上げられる可能性はある。
一方、高齢者のうち勤労収入が無い世帯にとっては、今年度の年金の引き上げ幅が物価上昇幅を下回っているため、4月以降も家計への影響が続いていると見られる。報道では、物価高で生活が圧迫されて、多くの高齢者が職探しに乗り出しているという事例も伝えられているが7 、健康状態が悪ければ、それができないという高齢者も多いのではないだろうか。
本稿で述べてきた物価高の高齢者への影響をまとめると、高齢者の方が、64歳以下の非高齢者に比べて、物価高の影響がより大きく、特に食料価格や光熱費の上昇が圧迫要因となっている。
高齢者世帯では、もともと生鮮食品や光熱費への支出割合が大きいため、このような品目の値上げが暮らしを直撃していると言える。防衛策としては、節電や買い控え等の節約に加えて、ものを長く使うなど、長い目で見て出費を抑える姿勢が伺えた。貯蓄の取り崩しも1割を超えた。
値上げの動きについては、それ自体に反対というよりは、値上げが妥当な範囲かつ適切な方法で行われるように、企業や第三者に説明責任や監視を求める声が大きかった。
コスト高を背景とする値上げについては、「やむなし」という意識が芽生えている一方で、家計の負担増は事実であるため、負担軽減のために、光熱費を抑制する取り組みなどの家計支援策を求めていると見られる。年金引き上げが物価高に追い付かない現状では、今後も高齢者の暮らしの実態を注視していく必要があるだろう。
このような状況で、高齢者にどのような商品・サービスが受け入れられるかというと、高齢者は、購入時の価格以上に、信頼性や安全性、耐久性など「質」への優先意識が強い。
「良いものを長く使う」ことによって余計な出費を抑えるというような、長い目で見た「賢い消費」を心がけている姿勢が伺える。若年・中年層に比べて長い時間軸で消費行動を判断していると言える。
また、老化していく中で、健康に良いものは、優先度が高いことも改めて分かった。高齢者市場においては、このような意識に応えていくことが重要だろう。
7 北海道新聞2023年5月29日朝刊。