2―物価高の高齢者への影響
2-1| 物価高の家計への影響
まず、ニッセイ基礎研究所「第12回新型コロナによる暮らしの変化に関する調査」から、物価高の家計への影響についてみていきたい(図表2)。「とても影響がある」との回答は、高齢者では43.7%、非高齢者(20歳から64歳まで)では42.1%、全体では42.4%であり、年齢層による違いは見られなかった。「やや影響がある」は高齢者は43.7%、非高齢者は37.1%、全体は38.4%で、高齢者は全体よりも有意に高かった。
2-2| 物価高の影響が大きい項目
物価高は幅広い範囲に及んでいるが、何の商品・サービスによって、物価上昇の影響を感じたかについて尋ねたもの(複数選択)が図表3である。高齢者で選択割合が多かった1位は「食料」92.7%、2位は「電気代・ガス代」(91.9%)でいずれも約9割に上った。日常生活に不可欠な食料や光熱費の値上げが、高齢者世帯の家計を圧迫していることを示した。
ここで、普段の高齢者の消費生活の特徴を見るために、総務省「全国家計構造調査(2019年)」から、世帯主の年齢階級別に、全消費支出に占める支出割合が大きい上位10項目を、筆者がランキングしたもの(図表4)を参照する。
これによると、「一般外食」の順位は、「30歳未満」から「60~69歳」までは4位以内であるのに対し、「70~79歳」と「80歳以上」では9位に下がっている。それとは対照的に、「野菜・海藻」が60歳代以下ではランク外だったのに対し、「70~79歳」では7位、「80歳以上」では6位に入っている。
つまり、高齢層では若年・中年層に比べて外食の支出割合が小さい代わりに、自炊のための生鮮食品への支出割合が大きいと言える。普段からこのようなライフスタイルであるために、食料品の値上げは、若年・中年層よりも、高齢層の家計への影響が大きいと言える。
同様に、支出割合ランキング(図表4)では、「電気代」も「60~69歳」では7位、「70~79歳」では5位と、若年・中年層(9~10位)に比べて順位が高くなっており、電気料金の値上げは高齢層への打撃が大きいことが分かる。
因みに「80歳以上」では「電気代」は3位と全年齢階級の中で最も高くなっている。ニッセイ基礎研究所の調査(図表3)は対象年齢を74歳までとしているが、後期高齢者の世帯に限れば、電気料金の高騰は、本調査の結果以上に家計を圧迫している可能性がある。
図表3に戻ると、高齢者が物価高を感じている項目の3位は「ガソリン代」(57.3%)である。支出割合ランキング(図表4)でも、ガソリン代を含む「自動車等維持費」は「60~69歳」「70~79歳」では1位、2位と順位が高く、高齢者の家計への影響が大きいことが分かる。コロナ禍以降、高齢者は公共交通を避けてマイカーを利用することが増えた影響もあると考えられる4。
逆に、支出割合ランキング(図表4)では、住宅の修繕工事を含む「工事その他のサービス」が60~69歳では9位、70~79歳では4位に入っているのに、ニッセイ基礎研究所の調査(図表3)では「住居の設備・修繕」は6.9%と選択割合が小さい。物価高の状況で、高齢者世帯のなかには、住宅の修繕が必要な状態になっても、実施を先延ばしにしているケースもあるかもしれない。