物価上昇率を上回る水準で賃金が上昇した現役世代に比べ、「マクロ経済スライド」によって年金水準が引き下げられている高齢者は、物価高による大きな影響を受けています。ニッセイ基礎研究所の坊美生子氏が、物価高に対する高齢者の意識や影響の大きさについて分析します。
物価高の高齢者への影響~食料や光熱費の値上げが家計圧迫。今後の消費のキーワードは「良いものを長く使う」と「健康」 (写真はイメージです/PIXTA)

 

2-3| 物価高への防衛策

 

 

次に、物価高への防衛策について、複数回答方式で聞いた結果が図表5である。最も大きかったのは「節電を心がける」(66.9%)で、全体(50.7%)より有意に高かった。すぐに取り組みやすい手段であることや、2-2|でみた、家計への影響の大きさの裏返しだと考えられる。

 

2位は「できるだけ不要なものは買わない」(63.0%)で、全体(52.4%)よりも有意に高かった。その他にも、「外食を減らす」(31.7%)、「洋服や装飾品を買い控える」(27.6%)、「旅行やレジャーなどの娯楽費用を減らす」(23.9%)なども全体より有意に高い数値となっており、高齢者には、ぜいたく品はできるだけ買い控える動きが強いことが分かる。

 

生活必需品についても「特売日やセールで買うようにする」が全体より大きく、割安に入手するよう努めていることが分かる。

 

また「できるだけ長く使えるものは使い続ける」も全体より有意に高い18.1%で、単に節約するだけではなく、ものを大事に使う「始末する」という姿勢が伺える。「貯蓄や投資を切り崩す」は14.4%だった。

 

全体(10.3%)と有意な差は無かったが、物価高が続けば、勤労収入の少ない高齢者の資産が目減りを続け、暮らしはより厳しくなっていく可能性がある。

 

 

2-4| 値上げに対する考え方
次に、値上げに関し、メーカーなどへの要望や、政府や自治体の対応についての考え方を尋ねて(複数回答)、「そう思う」と「ややそう思う」の合計が多い順に並べたものが図表6である。

まず、選択肢のうち大部分について、高齢者は全体に比べて「そう思う」「ややそう思う」と回答した比率が有意に高く、値上げに関する意見や要望が強いことが分かった。2-1|で述べたように、高齢者は値上げを実感している人の割合が高く、値上げに対してより敏感になっていると言える。

具体的な結果を見ると、トップが「今後、製造コストが下がった際は、きちんと値下げをして欲しい」(91.1%)だった他、「企業の不当な値上げや売り惜しみの監視が必要だ」(81.8%)、「値上げの際は、時期や理由などを十分に説明して欲しい」(79.2%)、「適切にコスト増を価格転嫁できているかの監視が必要だ」(78.4%)、「行政側からも企業の商品やサービスの値上げに関わる情報の提供が必要だ」(75.4%)など、値上げに関して企業側に説明責任や情報提供を求めたり、第三者に監視や管理を求めたりする項目が、軒並み8~9割と選択割合が高かった。

一方で、「品質は多少落ちても良いので、値上げはしないで欲しい」(25%)は選択割合が小さいことなどから、コスト高を背景とする値上げの動き自体は「やむなし」と捉えているものの、妥当な範囲と適切な方法で実施されるように求めている高齢者が多いことが伺える。

それと同時に、政府などによる家計への支援策への要望も多かった。最も選択割合が大きかったのは「電気代やガス代などの価格を抑制するような取り組みが必要だ」(84.0%)だった。2-2|で述べたように、光熱費の高騰は高齢層には強い圧迫となっていることを再び示す結果となった。6月からは、東京電力など大手7社が一部の電気料金引き上げを実施しており5、このような要望が一層、強まると予想される。

また、「公的年金は物価上昇を吸収できる水準への引き上げが必要だ」も74%となり、年金収入の増額への要望も強かった。その他、「所得税控除枠の拡大など、税制改正による負担軽減策の検討が必要だ」(71.8%)、「生活困窮世帯だけでなく一般世帯にも給付金が必要だ」(61.6%)も過半数に上った。「子育て世帯には優先的に給付金が必要だ」(51.5%)は全体(42.6%)よりも有意に高く、高齢者が子育て支援や少子化対策への意識が高いことも分かった。

 

 

2-5| 商品・サービスを選ぶ上で優先すること
このような物価高の状況で、高齢者が今後1年間に、商品やサービスを選ぶ上で優先することを尋ね(複数選択)、選択割合が多い順に並べたものが図表7である。

歴史的な物価高の状況で、20~64歳の非高齢者では「価格の安さ」(49.1%)がトップだったのに対し、高齢者においてはトップ2が「信頼性・安全性の高さ」(64.3%)と「長く使えること」(60.5%)となった他、「質の高さ」も約5割に上るなど、商品・サービスへの「質」を優先する意識が上回った。質が良くてしっかりしたものを選び、長く使った方が、長い目で見ると得だ、というような考え方が伺える。言ってみれば、消費に対する時間軸が若年・中年層よりも長いと言える。逆に言うと、モノを買い替える頻度が若年・中年層に比べて低いと見ることもできるだろう。

一方で、商品・サービスを選択する上で優先することとして、「価格の安さ」も過半数が選択しており、現時点における家計への影響をなるべく抑えようという意識も伺える。

また、「健康に良いものであること」も半数(48.7%)に上り、非高齢者(22.5%)より20ポイント以上高かった。「地球環境や持続可能性への配慮があること」(21.2%)も非高齢者(8%)より高く、節電に関する筆者の既出レポート6で述べたことと同様に、高齢層の方が環境意識が高いことを示していた。