国際アルツハイマー病会議でも警鐘…「何となく聞こえにくい」を放置してはいけない理由【医師が解説】

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前田 陽平
国際アルツハイマー病会議でも警鐘…「何となく聞こえにくい」を放置してはいけない理由【医師が解説】
(※画像はイメージです/PIXTA)

耳が聞こえにくいと感じても、「気にするほどではない」「高齢だから仕方がない」などと放置してはいませんか? 難聴がもたらすのは「聞こえにくさ」だけではありません。難聴の中でも誰もがかかりうる「加齢性難聴」に着目し、難聴がもたらすリスクや予防方法、難聴になった場合を見ていきましょう。耳鼻咽喉科医・前田陽平医師が解説します。

今、「難聴」が大注目を集めている理由

(※画像/PIXTA)
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2017年7月、国際アルツハイマー病会議で、難聴は高血圧、肥満、糖尿病などとともに認知症の危険因子のひとつとされました。さらに2020年には、「予防可能な12の要素の中で、難聴は認知症の最も大きな危険因子である」と発表されました。このため、難聴と認知症の関連は大きな注目を集めているのです。

 

どういった理由で難聴が認知症のリスク因子となるのか、はっきりしていない部分もありますが、聴力による脳への刺激が低下することなどが考えられています。さらに、認知症のみならず、難聴によってコミュニケーションに障害が生じることは社会的な孤立やうつのリスクになることも指摘されています。

歳を取るにつれて「耳が遠くなる」のはなぜ?

(※画像/PIXTA)
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年齢とともに徐々に難聴になることを、医学的には「加齢性難聴」といいます。40代ごろから始まりますが、すぐには自覚せず、徐々に進んで自覚します。難聴の有病率は65歳以上で急激に増加し、65歳~74歳で3人に1人、75歳以上ではおよそ半数が難聴と報告されています。

 

なぜ聞こえが悪くなるのでしょうか? そのことを説明するために、人がどのように音が聞こえているのか、ということを少し説明します。音は振動として伝わる、ということを聞いたことがあるかもしれません。

 

つまり、外部から音が振動として伝わり、鼓膜が振動します。鼓膜の振動は、鼓膜に付着するツチ骨、そこに連なるキヌタ骨、アブミ骨という3つの「耳小骨(じしょうこつ)」といわれる骨に連なって伝わります。アブミ骨は内耳(蝸牛:かぎゅう)の蓋になっていて、内部のリンパ液を揺らすことで内耳に音が伝わります。ここで電位の変化に変換されて聴神経を介して脳に伝わります。

 

(※画像/PIXTA)
【図表】耳の構造 (※画像/PIXTA)

 

加齢性難聴では、耳小骨までの部分(外耳・中耳)には異常は生じず、内耳以降の部分に異常が生じます。つまり、内耳そのもの、その先の神経経路、そして脳の機能低下の組み合わせの異常です。

 

ご高齢の方の難聴でもすべての原因が加齢性難聴というわけではなく、外耳や中耳の異常による難聴が生じている場合もあります。この場合は適切な治療によりその難聴を改善できるケースも多くあるので、加齢性難聴と思われる場合でも、お困りならぜひ一度、耳鼻咽喉科で診察を受けるようにしてください。

 

また、加齢性難聴の特徴として、高い音から聞こえが悪くなることが挙げられます。これによって子音の聞き取りが悪くなり、聞き返し・聞き間違いなどが増えてきます。さらに、難聴が進むにつれ、言葉の聞き取りが悪くなり、音としては聞こえていても言葉としては聞き取りにくい、という状態になります。

 

逆に音が大きすぎても聞き取りにくいため、ちょうど良い音量でないと難しい、ということになります。したがって、加齢性難聴の方に話すときには、やや大きめの(大きすぎない)声ではっきりと話すということが有効になります。

加齢性難聴を予防するには?若い頃から注意しておきたい点も

(※画像/PIXTA)
(※画像/PIXTA)

 

難聴のリスクとしては遺伝的な要素もありますが、後天的な要素や加齢性の要素もあります。したがって、ある程度予防することができます。例えば、大音量でテレビや音楽を聴くことを避けることです。

 

音量×時間の掛け算の結果が問題になりますから、音量にさらされる場合はできるだけ短時間に留めることも大事です。

 

例えば、若い方でも、ある程度うるさいところでイヤホンを使うのならノイズキャンセリングイヤホンにする、なども良い工夫です(ノイズキャンセリングイヤホンは難聴予防対策としては良いものの、周りの音が聞こえにくくなるという欠点もありますので、この点については注意する必要があります)。

 

スマートフォンによっては、音量をチェックできるアプリなどもありますから、こういったものを活用するのも良いと思います。

 

また、糖尿病、虚血性心疾患、腎疾患などは加齢性難聴との関連が示されていますから、これらの疾患を可能な範囲で予防することも有効かもしれません。

加齢性難聴になったら、どうすればいい?

(※画像/PIXTA)
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加齢性難聴になってしまっている場合、現在のところ、薬で治すことはできません。対応として現実的に最も多いのは補聴器での対応ということになります。なんだ、補聴器か…と思わずに、この先も少しお付き合いください。補聴器の使用によって認知機能の低下を緩やかにできたとする報告もあります。

 

まず、補聴器はどのように作るといいのかご存じでしょうか?

 

補聴器の購入を考える場合、最初にすることは、耳鼻咽喉科を受診することです。いきなり補聴器店に行くのではなく、まずは耳鼻咽喉科に行くということを覚えておいてください。耳鼻咽喉科によっては補聴器外来を持っているところもありますし、なくても他の原因を除外する、あるいは補聴器の意義についても説明してもらえます。

 

ここで知っておいていただきたいのが、「補聴器相談医」という存在です。日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会のホームページによると、『補聴器相談医は聞こえが不自由に感じるようになった方に対して、耳の状態を診察し聴力検査を行い、難聴の種類を診断します。治せる難聴に対しては治療を行います。治せない難聴に対しては真に補聴器が必要なのかどうかを診断し、必要があれば専門の補聴器販売店を紹介し連携して、その方に合った補聴器を選びます』とされています。

 

補聴器相談医が補聴器の必要性を認めて「補聴器適合に関する診療情報提供書(2018)」を記載し、認定補聴器技能士のいる認定補聴器専門店で購入するなどの条件を満たした場合に医療費控除を受けられることがあります。詳しくは日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会のホームページをご参照ください。

 

補聴器相談医は日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会のホームページから探すことができますが、インターネットで「補聴器相談医」と検索するだけでも、恐らくお住まいの地域の補聴器相談医を探すことができると思います。

 

補聴器を検討するときにはぜひ補聴器相談医に相談することをおすすめします。補聴器にはさまざまなタイプがあり、値段もさまざまです。適切な補聴器を購入するためにも、補聴器相談医、認定補聴器技能士に相談することが有効だと思います。

 

補聴器についてよく聞くのが、「購入したはいいが全然使っていない」という話です。補聴器はよく眼鏡と比べられます。眼鏡は購入してそのまま使うのが普通ですが、補聴器は細かく調整が必要になります。

 

補聴器と似た物として「集音器」が挙げられますが、それぞれの違いがわかりますか? 補聴器は小さい音は十分に大きくする一方で、大きな音は大きくなり過ぎないようにします。一方、集音器は一律に音を大きくするだけです。したがって小さな音はやはり聞こえないし、大きな音はうるさい、という事態に陥る場合も珍しくありません。

 

つまり、集音器は、補聴器と比較して補聴に対する効果を期待しにくいばかりでなく、大きな音によって耳を傷める原因にもなりうると考えられます。また、補聴器には言葉がはっきり聞き取れるように周波数ごとの音のバランスを整える音質調整の機能もあります。

 

以上のことから、補聴器を使っていくには細かな調整が必要だということがわかると思います。一般には、補聴器を「少しうるさい」程度の状態に調整しておいて、脳がその音に順応するようにしていくパターンが多いと思います。

 

「音が聞こえない環境」に慣れた脳を、「聞こえる環境」に慣らす必要がある、ということです。したがって、最初のうちは装用する方の頑張りも必要になるということです。周りのサポートも重要になります。

 

おわりに

(※画像/PIXTA)
(※画像/PIXTA)

 

最後に、「人工内耳」について少し説明します。補聴器以外の難聴に対する介入としては人工内耳があります。失われた内耳の機能を回復させる方法は今のところ実用化されたものはありませんが、人工内耳により内耳の機能をかなり代替することができます。

 

外部から聞こえてきた音を直接電気信号にして神経に伝えることで音を脳に伝えます。加齢性難聴は内耳のみの問題ではないので、これで万事解決というわけではありませんが、高度難聴の場合は適応になる場合もあります。

 

いずれにせよ、難聴を感じたら、加齢性難聴を疑う場合もそれ以外も、ぜひ耳鼻咽喉科で相談してください。また、どんどん寿命が延びる中で、耳を大事にするために、イヤホンは適切な音量で、時間を区切って使うことをおすすめします。

 

参考:太田有美 加齢性難聴の病態と対処法 (日老医誌 2020;57:397-404)

 

 

前田 陽平

大阪大学大学院医学系研究科 耳鼻咽喉科・頭頸部外科学助教

耳鼻咽喉科専門医、アレルギー学会認定専門医

 

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本記事は、株式会社クレディセゾンが運営する『セゾンのくらし大研究』のコラムより、一部編集のうえ転載したものです。