私立大学の医学部は、多額の学費から「お金持ちしか通えない」というイメージを抱く人も少なくありません。しかし、「医学部地域枠」を活用することで、学費だけでなく月々の生活費まで受け取ることができると、東京西徳洲会病院小児医療センターの秋谷進医師はいいます。大学ごとの具体的な補助金額を交えながら、詳しくみていきましょう。
「6年間で約4,000万円」の学校も…自己負担なしで“私大医学部”に通える「医学部地域枠」驚きの“補助金額”【医師が解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

「私立大学医学部=金持ち限定」はもう古い

私立大学医学部は、受験料も5万円から6万円程度が相場とこれまた高額です。しかし、前述の制度を活用することで、以前に比べて金銭的なハードルが大きく下がりました。決して簡単ではありませんが、門戸は開かれています。

 

「医学部地域枠」は、2008年ごろから地域枠の定員が徐々に増やされていき、2020年は全大学の医学部定員の合計9,330人中1,679人が地域枠での選抜となっています。これは医学部に入学する学生の6人に1人にあたります。

 

地域枠が設定された当初と比較すると地域枠は一般的な制度となっており、医学部入試を検討する学生の多くが、一度は地域枠での受験を検討しているという状況になっています。

地域枠の功罪

地域枠が地方の医療にもたらした恩恵は計り知れません。毎年1,500人超の医師を医師不足の地域に送り込むことができる画期的な制度であり、地域医療における医師不足を解消するための大きな原動力となっています。

 

また地域医療を志す医学部志願者にとっては、医学部受験の機会が増えることにもつながり、地域医療の道に進む後押しともなるのです。

 

一方、地域枠で入学した学生は多くの場合、高額な奨学金の貸与が行われており、卒業後に指定した地域・診療科での医療に従事することを拒否すると、利子をつけて一括で返済を迫られます。

 

入学後に家庭の事情で指定の地域等での医療に従事することが難しくなった場合でも、入学後に契約内容が変更されて勤務の義務年限が伸ばされた場合であってもです。

 

大学入試を検討する段階でこの地方枠の受験を決めるということは、高校生の段階で地域枠を利用するか決めるということです。医学部に入ってもいない、何の情報もない段階で、将来どこで、どのように働くのかを決めなければならないということです。受験生にとっては酷な問題でしょう。

 

「なんとしてでも医学部に入りたい」という強い思いを持った高校生が、冷静に地域枠を利用するメリット・デメリットを天秤にかけることは決して簡単ではありません。入学後にやりたいこと、いきたい場所を見つけても、地域枠が障壁となってしまうという事例は頻発しています。

 

地域枠受験後「他の地域や診療科に行きたい」という気持ちが強くなった学生を、無理やり指定の地域の医療に従事させても、モチベーションがなく最低限の仕事しかしない、義務年限が終わったらすぐに他の場所に移ってしまう、などの事案が発生し、思ったように地域医療の充実が図れない恐れもあるのです。

 

地域枠について十分に説明を行い、地域医療に従事することや従事する地域の魅力をしっかりと説明し、あわせてデメリットについてもきちんと話し、学生が納得したうえで地域枠を利用できるようにすることが、今後の課題となるでしょう。

 

学生本人だけでなく、周囲の大人も一緒に考える

今回は医学部受験の地方枠について解説しました。地域医療を支えるうえで非常に重要な制度であり、学生にとっても、医学部に入学するチャンスを広げる制度といえます。

 

一方、利用する際にはそれ相応のリスクのある制度です。利用する本人だけでなく、周囲の大人も交えて慎重に検討を行うことが重要といえるでしょう。

 

また今後、制度利用者に十分な説明をおこなうことに加えて、「やむを得ない事情」を想定した制度設計をしていくことが望まれます。

 

 

秋谷 進

東京西徳洲会病院小児医療センター

小児科医