私立大学の医学部は、多額の学費から「お金持ちしか通えない」というイメージを抱く人も少なくありません。しかし、「医学部地域枠」を活用することで、学費だけでなく月々の生活費まで受け取ることができると、東京西徳洲会病院小児医療センターの秋谷進医師はいいます。大学ごとの具体的な補助金額を交えながら、詳しくみていきましょう。
「6年間で約4,000万円」の学校も…自己負担なしで“私大医学部”に通える「医学部地域枠」驚きの“補助金額”【医師が解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

日本の医師不足を救う?「医学部地域枠」とは

病気や怪我の治療にあたり、国民の健康を守る職業である医師。その医師の不足は常に社会的な問題となっています。

 

医師不足は、単に国民の人数に対する医師の絶対数が足りないというだけの問題ではなく、「医師の偏在」も大きな問題といえるでしょう。

 

東京などの都市部では医師が多い一方、人口の少ない地方では医師が育たず、医師が不足しがちなことに加えて、外科などのハードワークが必要な診療科や、小児科といった収益化が他の科より難しい科の医師が少なくなるといった問題が挙げられます。

 

こうした医師の偏在に対応すべく、各大学や各自治体が設定している制度があるのはご存知でしょうか。それが「医学部地域枠」です。

医学部地域枠とはどのような制度か

医学部地域枠は地域の医師偏在を解消するために設定されている医学部入試の選抜枠です。

 

大学のある地域や、大学の指定する地域で一定年数勤務することを義務付けられる代わりに、奨学金の貸与が行われます。この奨学金は定められた期間、指定の地域、診療科などで勤務することにより、返済の義務がなくなります。

 

また、大学入試の際に一般入試と別に選抜される場合もあれば、一般入試を受験した学生のなかで、地域枠の希望がある学生に奨学金を貸与する形で地域枠を募集する場合もあります。

 

例①自治医科大学の場合

たとえば自治医科大学では、学費から寮費・食費にいたるまですべてが自治体からの奨学金でまかなわれており、学生は費用の負担なく通学することができます。

 

ただし、学校卒業後、学校法人が指定する公立病院で一定期間就労しなかった場合には、最大2,300万円に利息を加えた金額を「一括返還」しなければなりません。

 

例②防衛医科大学校の場合

また、防衛医科大学校は大学生ではなく、防衛省職員としての採用になるため、全寮制で月額10万8,300円の給与が支給されるほか、6月と12月には賞与が支給されます。

 

ただし、防衛医科大学では、卒業後9年間は自衛隊で勤務しなくてはなりません。自衛隊で勤務しなかった場合は、それまでに掛かった学費等約4,100万円を一括で償還しなくてはいけません。

 

例③北里大学医学部の場合

各大学の定める地域枠は月額15万円程度の貸与が相場でありますが、北里大学医学部の相模原市地域医療医師修学資金貸付制度〈医学部一般選抜試験(相模原市修学資金枠)〉では、入学金、授業料、施設設備費、教育充実費(1年次~6年次の合計:3,890万円)が貸与されます。

 

ただし、大学医学部では15%程度の学生が留年を経験するといわれるなか、成績不振、すなわち留年した時点で返還が求められるなど、厳しい制度ではあります。

 

[図表]大学医学部地域枠補助金抜粋(2023年度各大学医学部募集要項より)
[図表]大学医学部地域枠補助金抜粋(2023年度各大学医学部募集要項より)