8――考察
これらの結果より、「夜間起床回数」は、「子育てへの束縛による負担感」、「子どもの態度や行為への負担感」、「育て方への不安感」、「育ちへの不安感」、「育児への肯定感」の項目5つすべてに有意な影響を与えていた。
また、「育児協力者の有無」についても、「子育てへの束縛による負担感」、「育ちへの不安感」、「育児への肯定感」の項目3つに有意な影響を与えていたことが明らかとなった。
これらの「夜間起床回数」と「育児協力者の有無」については、育児負担感及び育児肯定感どちらにも共通して影響を与える要素であることが明らかとなった。
夜間の起床回数が多くなる要因として、3・4ヵ月の乳児の概日リズム(サーカディアンリズム)*6の影響が考えられる。出生直後から乳児早期までは、概日リズムが不明瞭であり、2,3時間ごとに睡眠と覚醒を繰り返す特徴がある。3・4ヵ月ごろの乳児は、この概日リズムが整い始めたばかりで個人差が大きく、大半が夜間覚醒の状態と推察される。
未だ授乳のリズムもまだ整わないため、完全母乳であれば1,2時間ごとの授乳、人工乳であれば3時間置きの授乳対応が求められ、更にこれに、排泄対応や夜泣き対応が加わることになる。これら乳児の発育発達特性が、夜間の起床回数を増加させる一因と考えられる。
一方で、この概日リズムが整った成人が、3・4ヵ月の概日リズムが整っていない乳児を保育する期間には、周期的であった睡眠リズムが崩れることで、身体的な疲労を抱えているのにも拘わらず、短期間での覚醒周期が繰り返されるため、興奮状態に陥り、睡眠障害などを呈すことが報告されている。
また、産後の睡眠障害は、精神的な焦燥感や不安感の出現、意欲の低下、頭痛や耳鳴りなどの身体症状が生じるなど身体的精神的に不健康な影響を与えることが分かっている*7。
つまり、3・4ヵ月の乳児を抱える保育者は、これら乳児側の要因と保育者側の要因が重なることで、夜間の起床回数が決定されると考えられる。
しかし、これら育児に伴う夜間起床回数は、育児協力者の有無に左右される。たとえば、家族構成が核家族で、授乳方法が混合栄養又は人工乳の場合は、夫と妻が交互に夜間対応すれば、最短2時間のような睡眠時間は回避することができる。完全母乳の場合は、授乳間隔が1,2時間であることが多く、夫が夜間の授乳育児に介入できないと思われがちだが、事前に母乳を搾乳し、保存ボトルやバックへ入れ、冷蔵庫で一定時間保管する方法があり、育児協力者がいる場合は、夜間の授乳を交代することも可能なのである。従って、配偶者の協力を得られない場合や配偶者がいない場合にも、祖父母の協力を得られることができれば、これらの負担はさらに分散させることができる*8。
育児協力者がいない場合は、日中から続く育児に加え、夜間にも対応に追われ、睡眠不足が重なり、身体的・精神的負担が積み重なることが容易に想像できる。
これらのことより、育児期間中には、育児負担感を高める要因である「夜間の起床回数」及びその増減を規定する「育児協力者の有無」に特段に留意する必要があることが示唆された。
*6:国立保健医療科学院「正常新生児乳児の概日リズム」p177-179.
https://www.niph.go.jp/wadai/mhlw/1984/s5908055.pdf
*7:足立淑子ら(2018)「産後1ヵ月の褥婦における睡眠と主観的精神健康観との関連」日本公衆衛生学会誌
第65巻第11号p646-654.
*8:筆者は行政保健師時代に、核家族化や高齢者の育児への参加意欲などを考慮し、行政の育児教室としてジジババ教室を発案し設置に至った経験がある。ジジババ教室の設置やジジババ休暇の新設などを提唱していきたいと考えているが、該当内容のものは別稿で執筆する予定である。
9―まとめ
本稿では、対児感情尺度からみえる育児負担感についての要因分析を実施した。その結果、「夜間起床回数」は、「子育てへの束縛による負担感」、「子どもの態度や行為への負担感」「育て方への不安感」、「育ちへの不安感」、「育児への肯定感」の項目5つすべてに有意な影響を与えていた。
また、「育児協力者の有無」についても、「子育てへの束縛による負担感」、「育ちへの不安感」、「育児への肯定感」の項目3つに有意な影響を与えていたことが明らかとなった。
このことから、夜間の起床回数と育児協力者の有無は、育児の負担感と肯定感の増減に有意に影響する共通要素であり、育児期間中には、育児負担感に影響を与える夜間の起床回数と育児協力者の有無には特段に留意する必要があると示唆を得た。
引き続き、本解析で用いたデータを用いて、妊娠・出産・育児の実態を解析していく予定である。