日本の金融教育は世界的にみて圧倒的に遅れていると言わざるを得ません。日本では義務教育における金融教育の授業は中学3年生に1~5時間程度です。しかし例えば英国では、小学校の全学年で学習する機会が設けられています。年間2,000名以上の子どもたちに出張授業という形で金融教育プログラムを提供する盛永裕介氏は、「子どもたちのお金に関する知識の低さは将来のキャリア選択にも影響する」と指摘します。子どもたちが金融リテラシーを身に着けることで、将来の選択肢をどのように広げられるか? 実際の事例をもとに解説します。
「もっと給料をもらえると思っていた…」短大卒の平均給与、大卒との衝撃の差。短大生こそ金融教育が必要なワケ (※写真はイメージです/PIXTA)

短大生に問う「なぜ資産運用が必要なのか?

「なぜ資産運用が必要なのか?」について考えます。資産運用が必要な理由は、主に以下の2つです。1つ目は、インフレーションから資産の購買力を保全するため。2つ目はライフイベントの支出に備えるためです。

 

実際の授業ではまず、インフレーションとは何かを説明し、1950年と現在の物価の違いを例に取って、日本がどのようにインフレーションに影響されているかを説明します。食パン1kg6)あたり、1950年は45.4円でしたが、2022年12月は485円に推移していることを例示します。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

他にうどんやそば、タクシーの初乗りなどの価格推移を示すと、学生から「様々な商品の値段推移を見て、昔の値段の安さにとても驚いた。特にパンの値段が10倍以上も上昇していると思わなかった。」という感想を得られました。日常生活を取り巻くあらゆる商品の価格推移を示すことで、インフレーションが資産の購買力に与える影響を説明します。

 

次に、ライフイベントの支出に備えるために必要な資産運用について説明します。教育費、住宅費、老後の費用など、人生で必要となる3大支出について説明し、それらの費用がどの程度かかるかを示した結果、「こんなにお金がかかっていることを知らなかった。まずは両親に感謝したい。」という感想を得られました。

 

そして、生涯年収の平均と退職金受取額の減少を示します。学生の多くは、もっと給料をもらえると思っていた様子で、自分が理想とする将来を実現するには計画的な貯蓄をする必要があることを伝えました。

 

盛永 裕介
(株)Japan Asset Management JAM Academy 塾長

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出典:

1)QUICK資産運用研究所(2022)「個人の資産形成に関する意識調査」

2)株式会社お金のデザイン(2022)「50~70代男女を対象とした老後資産に関する意識調査」

3)日本証券業協会(2022)「NISA口座開設・利用状況調査結果(2022年9月30日現在)について」,pp.1

4)吉野尚行,東珠実(2016)「これからの消費生活における適切な選択:消費者教育の視点から」

5) Lührmann, Melanie, Marta Serra-Garcia, Joachim Winter (2015)「Teaching Teenagers in Finance: Does It Work?」, Journal of Banking & Finance 54,pp.160–174

6)総務省統計局(2023)「主要品目の東京都区部小売価格」