理想の老後を送っていたAさん
Aさんは大手企業の営業部長を勤め上げ、5年前に定年退職となった70歳の男性です。定年直後は約2,000万円の退職金のほかに個人年金も含めた約3,000万円の預貯金もあったため、約2,000万円かけてリフォームした自宅に3歳年下の妻と2人きりで、理想を絵にかいたような悠々自適の生活を送っていました。もともと裕福なご家庭に生まれたAさん。営業部長だったこともあり、多様なお店に精通しており、夫婦揃っておしゃれで食通です。
Aさんは子どもが2人(44歳の長男と36歳の長女)おり、どちらも結婚し子どもがいますが、Aさんと離れた土地でそれぞれが生活を立てていて、安心して夫婦2人の生活を満喫できるもの、と思っていました。しかし、手が離れた、と思っていたこの子ども達がAさんの暮らしを一変させる出来事が起きるのです。
「仕事で毎日帰りが遅く、育児や躾は妻にすべて任せていました。休みの日も接待ゴルフ等で子どもの相手も満足にできなかった負い目もあり、いま思えば甘やかして育ててしまったのかな? との反省はあります。」
一体、Aさんになにが起きたのでしょうか?
(※Aさん夫婦の了解を得て、脚色を加え公開しております)
予想外の出来事で熟年離婚の危機!?
Aさんの子どもの話の前に、Aさんが過ごした定年後の5年間を振り返ってみましょう。当時のAさんは大手企業の優秀な営業部長でしたし、会社の経営も順調で、年収は1,000万円超(ボーナス以外の月収手取りは約50万円)、すでに子ども達も結婚していたため、ほかの家庭に比べると夫婦2人で贅沢な暮らしをしていました。リタイア生活1年目。まだまだ元気なAさんですから、趣味のゴルフや夫婦2人での海外旅行などを楽しむとともに、退職金を利用しての家のリフォームや電化製品の買い替えなど、大きな出費のあった1年間でした。
しかし、年金額は月にすると約23万円、一般的な受給者の年金平均額に比べると多いとはいえ、現役時代の手取りの半分以下となってしまいます。さすがにAさん夫婦は生活を反省し、「ちょっと生活を改めようか」と話し合いを行いました。
リタイア生活2年目。生活の見直しを話し合ったAさん夫婦ですが、急に生活は変えられるものではありません。それでもゴルフや外食の回数を抑える等、それなりに工夫を凝らした1年でしたが、家でじっとしていられないAさんは外出癖が抜けず、外に出るとなじみの喫茶店に寄るなどわずかでもお金を使ってしまう生活を続けてしまいます。
リタイア生活3年目。この年、長女が夫婦2人の生活を一変させる出来事を起こします。なんと、離婚して孫(3歳の男の子)を連れて戻ってきたのです。夫婦2人暮らしを想定してリフォームした家に孫とともに4人で住むことになってしまいました。長女は毎月養育費を受け取っていましたが、住居費の節約と働きに出るために息子の面倒をAさんの妻に見てもらおうと同居を願い出てきたのです。かわいい孫のため、と了解したAさん夫婦ですが、家の中でも朝晩走り回る孫にAさんの奥さんは疲弊してしまいます。綺麗にリフォームした家も荷物だらけ、元気な孫のせいで傷だらけとなっていきます。
Aさん自身はそんな家に居ることが苦痛で、孫の世話を奥さんに全部任せてしまい、やはり外出が止められません。また、外出の際はかわいい孫におもちゃやお菓子などもついつい買って帰ってしまいます。わずかな出費、と思っていてもこうした出費は積み重なって大きくなっていきます。Aさんの奥さんのストレスは増えるばかり。夫婦のあいだにも少しずつ亀裂が生じてきてしまいました。
リタイア生活4年目。この年に新型コロナウィルスが発生します。自粛生活が求められ、Aさん自身も思うように外出できずストレスがたまっていきます。そんななか、勤めていた長男の会社の経営が悪化し、40代になっていた長男はリストラされてしまいます。しかも長男は2人の子ども(私立中学生男子・公立小学生女子)がいますが、毎月約10万円の住宅ローン、私立中学の学費などの支出も大きく、こちらもAさんに頼ってくるようになります。
リタイア生活5年目。円安や原油高騰により41年ぶりといわれる大幅値上げとなり、娘は食費を入れてくれるとはいえ、支出は大きくなっていきます。夫婦共働きの家庭であれば日中は家に誰もいなくなり、電気代も節約できますが、孫の面倒を見ている高齢者はほとんど家にいますので、夏にはエアコンもフル稼働で、光熱費にも頭を痛めるようになってきました。テレビでは毎日のように値上げの話題が流れてきます。
数年前は理想の老後の生活をスタートしたはずなのに……。70歳になってからの悩みにAさんは頭を抱えてしまいました。