社会人になってまもなくすると、保険会社に就職した同級生から勧誘を受け、保険に加入するというケースは少なくありません。加入当時は勧められた保障の内容を気に入っていたとしても、自身が実現したいライフプランとマッチしているかどうかまで熟慮していないと、本来自分を守るはずの保険によって苦しめられることになるかもしれません。今回は、長岡FP事務所代表の長岡理知氏のもとへ相談があった、結婚を間近に控えた27歳の女性、Kさんの事例をみていきます。
このままじゃカレと結婚できない…手取り23万円・27歳メーカー勤務、貯蓄を減らし続ける「外貨建終身保険」の驚愕の内容【FPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

Kさんの保険はどうすべきか

外貨建終身保険への対処

ライフプランを無視した保険構成であるため、そもそも掛け金を継続して払えるかどうかはまったく考慮されていないようです。そうなるとこの保険は解約するべきかという検討になりますが、終身保険は銀行預金とは違い、掛け金がそのまま積み立てられるわけではありません。契約から数年間は、解約返戻金はほとんどないか、あってもわずかです。

 

Kさんの保険証券を見ると、契約から2年経過したときの解約返戻金は1,500ドル程度。一方、払い込んだ累計の掛け金は13,000ドルでした。解約すると約11,500ドルも下回ることになります(1ドル=130円として計算すると約150万円)。あくまでも保障を買っていたと考えがちですが、それにしては掛け金が高すぎます。150万円で24か月間、50万ドルの死亡保障を買っていたと考えると、月62,500円の掛け金に相当します。掛け捨ての保障であればはるかに安かったはずです。

 

Kさんに残されている選択肢は、解約するor継続する、しかありません。ライフプラン上、継続は現実的ではないでしょう。

 

「1年でも長く継続してから解約したほうが支払累計総額を割り込む金額は少ないのでしょうか?」とKさんが質問しましたが、1年間継続すると逆に割り込む金額が増えてしまいます。それに出産も海外赴任の帯同時期もそう遠い時期ではないため、支払いしていくのは現実的ではありません。結婚生活に不安を持ち込みたくはないので、終身保険は解約する方向で検討するということになりました。

 

老後資金のための資産運用は必要ですが、結婚する予定がある場合、結婚後に夫婦で話し合って方針を決めるべきでしょう。まずはつみたてNISAなど国の優遇制度を優先的に検討することをおすすめします。Kさんの場合、近い将来に購入するマイホームの自己資金を普通預金で貯める必要もあります。やはり資産形成の手段として終身保険を選択する優先度は高くありません。

 

収入保障保険への対処

次に、収入保障保険(死亡保障)は「親に感謝を伝える」という曖昧かつ感傷的な必要性で勧誘されていたため、加入する意義を論理的に再検討しました。死亡保障は、自分が死亡することで経済的な損失を被る人に残すべきものです。Kさんの状況では子供が生まれるか、マイホームを購入するまでは必要がないかもしれません。もちろんKさんの担当者が言うように大きな身体障害が残る状態(高度障害)になったときには、自分でその死亡保障を受け取ることができます。

 

しかしながらその「身体障害状態」の定義は再検討する必要があります。Kさんの保険では高度障害と呼ばれる非常に重い状態(高度障害状態)だけが保障範囲ですが、片腕の機能喪失や片目失明などの高度障害状態に比べより軽い状態でも仕事を失い生活が困窮することがあります。自分が働けなくなったときに備えるための保険は就労不能保険などという名称で販売されています。そちらを含めて検討すべきでしょう。

 

医療保険への対処

最後に医療保険について。「高額療養費制度があるから医療保険は不要」というのはかなり雑な見解といえます。高額療養費制度は毎月1日から月末日までの医療費に対して上限を設けている制度で、月をまたぐとその上限を超えてしまう落とし穴があります。治療が1ヵ月で終わるのであれば貯蓄で賄うので医療保険は不要ともいえますが、大病をすると治療は数ヵ月~数年におよぶこともあります。

 

「1ヵ月だけなら治療費は簡単に払えるけれど、その負担が毎月続いていくのは厳しい」という状態になるのです。有給休暇にも日数に制限があり、傷病手当金はあるものの金額は余裕のあるものではありません。働けない状態で貯蓄がどんどん目減りする状況は相当なストレスになるはずです。Kさんのお母さんが40代のときにガンで亡くなっていることから、潜在的に不安感をお持ちのようでした。

 

医療保険はしっかり検討したいというご意向でした。Kさんの担当者がなぜ医療保険を強く勧めないのかというと、知識の無さもありますがその保険会社では医療保険からもらえる歩合が少ないからでしょう。実入りが大きいのは掛け金が高い外貨建保険のほうだからと想像がつきます。

 

結果的にKさんの生命保険は一度すべて解約をして、入り直しを検討することになりました。筆者からは見直しするポイントをお伝えし、今後Kさんはご自身で各保険会社に見積もりを依頼するとのことです。

加入内容だけでなく、「払い続けられる掛け金か」しっかり検討する

生命保険はその保障内容もさることながら、毎月の掛け金を支払い続けられるのかという問題があります。毎年のキャッシュフロー上、その掛け金が払えるのかという目線で生命保険を捉えるFPはごく少数です。ライフプランの相談と、生命保険の加入手続きをする人はなるべくわけることをお勧めします。

 

もしライフプランの相談と生命保険の勧誘が同じ担当者である場合は、自分の意向をいかに細かく訊いてくれるか、自分が受け取る歩合に関係なく必要な保険を勧めてくれるのか、掛け金の問題にも親身になってくれるのかを見極める必要があります。特定の商品を「ゴリ押し」してくる営業パーソンであれば、避けたほうが無難でしょう。客を論破するような営業パーソンはいまだに少なくありません。

 

 

長岡 理知

長岡FP事務所

代表