親の「死」はいずれどの家族にも訪れます。あとあと、困らないために親の身体が元気なうちに相続について話し合いをしておくべきですが、なかなか切り出しづらい内容であることも事実です。では、どのように切り出せば話が上手く進むのでしょうか? 3人の子を持つAさんの事例とともにCFPの森拓哉氏が解説します。
「こんな仕打ちって…」相続の家族会議で長女絶句、面倒をみてきた高齢の父が放った“衝撃の一言”【CFPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

親の相続の話はどう切り出すべきか?

この場合どのような順序で話し合いをすればよかったのでしょうか? Aさんに伝えるには、Aさんの身の回りのお世話のことを中心に話を進めると会話のキャッチボールが成り立ちやすいです。相続の課題解決は100%完璧というものは難しく、どちらかというと最大公約数の答え、いわば落としどころを探すことが大半です。

 

高齢になったAさんが、長女を頼りにする気持ちのなかには、お願いごとをすることを申し訳なく思う気持ちが混じっていることが大半です。言いにくい話かもしれませんが、いざお父さんが認知症で意思判断能力が無くなり、体が不自由になったときにどうすればよいのか? こういった話は、より現実味がありAさんも耳を傾けてくれる可能性があります。

 

・介護保険を利用するのか、介護保険を利用する場合にどの施設でどの程度のサービスを希望するのか? 

・施設入所の際の身元引受人は誰がなるのか? 

・資金繰りはどうするのか? 

・どの口座のお金を使えば良いのか?

・お金は使える状態になっているのか、そのことを家族は把握しているのか?

 

これらの話題は真剣に伝えれば話し合いとして継続します。

 

根気強く続けていくと、どのような制度があるのか、という点も話題にいれることができます。後見人制度、家族信託などの選択肢があることがみえてくるでしょう。後見人制度、家族信託の話を答えありきでするのではなく、話し合うプロセスの一環に後見人制度や家族信託というツールを置くと話はスムーズになりますし、最後に残る選択肢がなにかということもおのずとみえてきます。

 

Aさんの意思判断能力が弱くなった場合に、困るのは家族でもあり、当人でもあります。日常生活で困らないようなにを準備しておけばよいかという話し合いは、比較的、冷静に穏やかにできることがあります。そのような話し合いの、やがて行きつく先はどうしても避けられない「死」ということになります。

 

そのときは遺言書を残せているか残せていないかが効果を発揮します。Aさんが遺言書を残す気になるかどうかは話し合いがどのように進行するかによって、気持ちが当然変わるでしょう。遺留分などの最低限の取り分の話などは長女が直接話すと角が立つ可能性もありますから、専門家を交え、第三者に話してもらうことが有効なケースもあります。

 

どこを落としどころにするかというのは、Aさんの気持ちによって変わっていくのがむしろ当たり前です。そのことを受け止めたうえで、いまできる子としての親への関わり方、親が困らないように、自分が困らないようにという視点で「話を継続する」ということにまずは焦点を絞ると、少なくとも話が頓挫して進まなくなる、という事態は避けることができます。

 

子から親に相続の話をするときにどうすべきか悩んだ場合、「継続するにはどんな話をすべきか、父や母は耳を傾けてくれやすいか」という視点を持つことをお勧めします。結果にコミットも大切な考え方ですが、結果を求めて話が頓挫すると元も子もありません。


 

森 拓哉

株式会社アイポス 繋ぐ相続サロン

代表取締役