看護師の妻と2人の子どもに恵まれ、誰もが羨むエリート会社員生活を送ってきたYさん。そんなYさんには、密かに抱えていた「老後の夢」がありました。しかし、その夢を妻に打ち明けたところ「離婚」を切り出されてしまいます。いったいなにがあったのでしょうか。みていきます。
「定年退職したら離婚してください」…年収1,800万円・大手広告代理店勤務・57歳男性の“老後プラン”に、妻が激怒したワケ (※写真はイメージです/PIXTA)

Yさんに見えていないデメリットと「実家の本当の価値」

Yさんの「移住計画」ですが、妻にとってのデメリットは

 

・知り合いがいない土地でゼロからのスタートになる
・現役時代に会話がほとんどなかった夫との窮屈な生活になる
・友達と疎遠になる
・妻の実母はいま妻の兄と同居しているが、もし介護することになったら娘である妻が担いたいと思っている。移住したら実母宅に非常に通いづらくなる
・生まれたばかりの孫と離れた場所で暮らすことになる
・孤独、退屈に耐えなければならない

 

など、非常に多岐にわたります。想像しただけでも気持ちが沈みそうになってしまうようなこれらの問題は、その多くが「感情」の問題です。このような妻の不安や悩みを日頃から2人で話し合う習慣がないまま57歳になっているのですから、老後の夫の理想を叶えようという気持ちになれないのは当然です。Yさんは妻のお母さんへの思いも無視しているのですから、憤慨するのも無理はありません。

 

相続の問題

さらに、Yさんが気づいていないお金の問題もあります。リノベーションに2,000万円かけて綺麗にしたとしても、Yさんが亡くなったあとは誰がその家を相続するのでしょうか。

 

東北地方で250坪の土地に建てられた大きな古い家は、維持をするだけでも高額です。子ども2人はまったく別の場所に住み生計を立てているため一生住む予定はありません。しかしYさんが移住したとなれば、相続後修繕費と固定資産税、火災保険費を支払い続けることになります。

 

さらに、そのような物件は地方都市では売却はほぼ不可能でしょう。どうしても売りたければ、建物を解体して更地にしてから売るしかありません。しかし、延床面積70坪の建物では解体費が莫大になるうえ、不便な田舎町ですから土地は坪2万円程度でしか売れないでしょう。収支は圧倒的にマイナスです。Yさんの実家は、老後移り住むどころか、Yさんが元気なうちに“処分”しておくべき「負の遺産」なのです。

 

また、もし妻と離婚ということになれば、財産分与する額が莫大となります。Yさんが1人で実家に移り住むことさえ現実的ではなくなります。いずれにしても実家に引っ越すことは、いまは諦めるべきということがわかってきました。