合計特殊出生率高低比較の運用条件
合計特殊出生率を「出生率」(Total Fertility Rate:以下、TFRと表記)として認知・報道・政策指標として使用されることが非常に多いにも関わらず、その計算方法や利用上の問題点を熟知している者は多くない。
TFRは、一定規模の人流が発生しているエリア、またはエリア間同士の少子化度合いを比較する材料として利用するには向いていない、つまり適していない指標である。なぜだろうか。
そもそもTFRは測定年に
「そのエリアに住む」
「15歳から49歳の」
「すべての女性の」
「結婚(カップリングの有無≒未婚既婚)ならびに出産の有無の動向を反映して」
「そのエリア内の女性1人が一生に授かるだろう子供の数」
を推計した統計上の指標であることをご存じだろうか。TFRに関して少なからず見聞する典型的な誤用を2つ挙げてみたい。
TFRは夫婦当たりの子供の数という誤解
例えば、2021年のTFRが1.30である、と聞いて「日本の夫婦は平均1.3人しか子供を持たなくなったのか。そりゃあ少子化になるよ」などと思っていないだろうか。間違いである。
そもそもTFRは夫婦当たりの子供の数の指標ではない。未婚女性を含めた数であるから、そのエリアにおける未婚者の割合が増えれば(日本は婚外子比率が2%台のため、なおさら)TFRは低下するのである。TFRが低下したとしても、夫婦当たりの子供の数に関しては、むしろ増えている場合すら考えられる。実際、日本の初婚同士の夫婦が最終的にもつ子どもの数(完結出生児数)は1.9程度を保っている(図表1)。日本の赤ちゃんの激減(1970年→2020年で43%水準へ)を説明できるほどの夫婦当たりの子供の数の低下はしていないのである。