(※写真はイメージです/PIXTA)

かつては「診療報酬のうまみが少ない」とないがしろにされ、人員不足等による劣悪な労働環境から自殺や過労死する医師も出るなど、「激務・薄給の代名詞」として医学部生から敬遠されていた小児科医。しかし、診療報酬の改定や「コロナ特需」により、いまや日給40万円、50万円など破格の待遇も散見されると、高座渋谷つばさクリニック院長の武井智昭先生はいいます。普段なかなか知ることのできない「医師のおカネ事情」について、詳しくみていきましょう。

「出来高払い」で圧倒的不利…儲からなかった小児医療

患者の皆さまが受ける医療行為の対価として医療機関に支払われる「診療報酬」には、厚生労働省主導の「医療費抑制政策」が容赦なく実施されていました。

 

診療報酬は原則「出来高払い」のため、検査・投薬を実施した分だけ加算されます。

 

成人では心電図やレントゲン、CT/MRIなどの検査や高額な血液検査が容易に実施できますが、一方小児科では採血ひとつとっても暴れる子どもを抑える人員が必要であり、CT/MRIなどの画像検査も、鎮静薬を行い医師の監督のもと実施する必要があります。

 

加えて、子どもでは体重や年齢などを勘案しながら慎重に投薬量を設定する必要があるため、その量は成人より少なく、経営効率は圧倒的に不利でした。

 

2000年頃の医療機関は経営環境が悪化の一途を辿っており、経営効率の悪い小児科を切り捨てる傾向にありました。医業費用における人件費が、内科36%に対し小児科では61%という報告からも、小児科がターゲットになっていた理由が浮き彫りになっています
※ 2001年医療経済実態報告より

 

また、休日夜間などの「時間外救急加算」も雀の涙レベルでした。1996年に小児救急体制を評価する「地域連携小児休日夜間診療料」が導入されましたが、算定要件においても「24時間体勢で小児科医10名以上のチーム」という厳しい内容で、かつ300点(3,000円)程度というものでした。

 

このように、診療報酬の加算にうまみがないため、一般のクリニックにおいてはよほどの補助金が支給されない限り、休日・夜間の診療をすることはありませんでした。

 

このため、休日・夜間にお子さんが体調不良になった場合、そのほとんどが入院や処置を不要とする軽症例であったものの、受診先は夜間救急対応をしている入院対応が可能な二次医療機関に殺到していました。

 

当時、病院における救急外来受診者の大半が小児科であった現象から、小児救急を「コンビニ救急」と揶揄していたのも事実です。地域によりますが、夜間に1日50~60名の小児患者を対応することも日常茶飯事でした。

 

そのような大きな病院であっても、やはり診療報酬としては1名5,000~6,000円程度と赤字になるばかりで、診療体制の維持には市町村等からの補助金が不可欠という状況でした。

 

その一方、緊急に医療を受けられずにたらい回しにされ、命を落としてしまうお子さんも少なくありませんでした。小児救急体制の不備、脆弱性の改善を求める声も高く、こうした様子は、佐藤秀峰氏の漫画『ブラックジャックによろしく』(講談社)にも適切に描写されています。

 

1999年、月に8回の当直勤務を実施していた小児科医N医師の自殺が報道され、小児科医の不遇・労働環境の厳しさがクローズアップされるとともに、医学部生からは、将来選択する診療科目として敬遠される傾向にありました。

 

1963年~2007年での統計では、22名の医師の過労による死亡が取り上げられ、22件中小児科医が3件、研修医が4件であったことも、一睡もできない救急医療現場が医師の負担になっていたことが想像できます

※ 『壊れゆく医師たち』(岡井 崇,川人 博,千葉 康之,塚田 真紀子,松丸 正 著、岩波書店、2008年)より

 

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