(※写真はイメージです/PIXTA)

世界一多い感染症「歯周病」について、サッカー通りみなみデンタルオフィス・橋村威慶院長が解説します。

歯周病のリスクは「全身」に及ぶ

糖尿病、がん、誤嚥性肺炎、認知症、虚血性心疾患、心内膜炎、肥満、動脈硬化症、心筋梗塞、骨粗しょう症、低体重症、早産、インフルエンザ、関節リウマチ、そしてコロナ感染…これらの病気は全部ある細菌が関係しています。皆さんお分かりでしょうか? 歯周病菌です。歯周病菌は口腔内の悪化だけでなく、これらの病気の直接的な原因となったり、相互的に作用して病状を悪化させたりします。歯周病になったらどうなるのか? また、コロナウイルス感染や全身疾患との関係を述べていきます。

歯周病は継続的な通院が大切!

歯周病にかかった人は継続的に通院して治療することで重症化を防ぐことができます。しかし、今回のコロナパンデミックはメインテナンス(継続的な治療)を中断する患者さんが多く出ました。当院も同様に多くの中断患者さんが出ました。一時期コロナ感染者数が減り、メインテナンスを再開する患者さんが来院するようになりましたが、再来院した患者さんは例外なく歯周病が悪化していました。

 

歯周病の特徴として、一度歯周病にかかった人は完治することはなく、セルフケア(自宅での毎日の口腔ケア)だけでは重症化を防ぐことができないために悪化してしまったのです。

コロナ流行下、受診控えした歯周病患者はもれなく悪化

では、どの程度の患者さんが歯科受診を控えていたかのでしょうか? 感染初期段階に一番多くの患者さんがメインテナンスを中断しました。2020年にサンプルをとった研究では50.4%の人が歯科医院に行くのをためらったという結果が出ています。実際にはおよそ30%の患者さんが歯科を受診しなくなりました。特に緊急性の少ない定期検診の患者さんが減り、相対的に応急的な治療が増えました。

 

コロナ感染拡大初期の頃、私はメインテナンスを中断せずに通院している患者さん(80代女性)から、「定期検診に行くのは命懸けです。感染したら死ぬもんだという覚悟で来ています」と聞いたのを憶えています。当時ワクチンは開発中で研究も今より進んでなく、コロナウイルスに対する恐怖は強いものでした。

 

また、この研究では歯科医院に行く怖さを持った人は、通院を継続している患者さんよりも口腔ケアに励む人が多かったと発表しています。おそらく定期検診を中断した患者さんがよりセルフケアに励んだのではないでしょうか。当院でも「歯科医院に行けないのでその分歯磨きを頑張っていた」と数年ぶりに来た患者さんが言っていたのを記憶しています。しかしながら通院を中断した患者さんは、すべて歯周病が悪化しているという残念な結果でした。

悪化させないためには「通院&セルフケア」が不可欠

歯周病に一度かかってしまうと、歯科医院で歯周病の治療を受けて歯周病の程度を軽快させ、定期的なメインテナンスを受けることが必要となります。セルフケアの中心は歯磨きになります。プロフェッショナルケア(歯科医院での治療)とセルフケアにより良好な口腔状態を保つことができます。片方だけのケアでは、どんなに頑張っても歯周病の悪化を止められません。なぜでしょうか?

 

歯周病菌は単独でいるわけでなく、他の細菌と寄り集まって存在しています。これをバイオフィルムと言います。このバイオフィルムは歯と歯茎の境目の歯周ポケットというところに多くいて、しっかりと歯にこびりついています。バイオフィルムは歯ブラシや洗口剤では取り除くことができず、たとえ抗生物質を飲んでもバイオフィルムの表面にしか影響を与えないのでバイオフィルムを壊すことができません。このバイオフィルムを取り除くのは歯科医院での治療以外なく、いったんメインテナンスをやめてしまうと、このバイオフィルムはどんどん成長して頑丈になり歯周病を悪化させてしまうのです。

 

また最近の研究では、歯周病菌は歯の表面だけにいるだけでなく、歯周病菌自体が体内の免疫から逃れ生き残るために歯の周りの細胞にまで浸透しているのがわかりました。細胞内に侵入した歯周病菌を取り除くには、バイオフィルムの除去と同様に歯周病治療が必要です。

 

歯周病は歯科医院での治療も重要ですが、毎日のセルフケアが治療と同等に大切です。歯科医院で治療をしても良くなるのは一時的であり、それを保つのがセルフケアなのです。普段のセルケアを怠っていると、蓄積されたプラーク(歯垢)が再びバイオフィルムを悪いほうに強化させ、歯周病菌が細胞内に侵入するのを容易にしてしまいます。

コロナ感染も歯周病の悪化を招く!?

2021年のアメリカのネブラスカ大学の研究では、コロナウイルス感染により歯周病が悪化する報告をしています。これは通常の歯周病の進行とは経路が違います。体内にはNRF2タンパクという解毒や抗酸化防御をしている重要な抗酸化物質があります。通常NRF2は歯周病を含む体の様々な炎症を抑える役割をしていますが、コロナウイルスはNRF2の効力を阻む動きをします。歯周病菌にとっては厄介な敵がいなくなったので暴れやすい状態になります。

 

さらにより凶暴となった歯周病菌が含まれるバイオフィルムからはレニンアンジオテンシン2(ACE-2)という酵素が放出され、ACE-2はNRF2の役割の邪魔をして悪循環が続きます。

 

以前にも述べましたが、コロナウイルスはACE-2と合体して感染を促進させます。

 

歯周病、ひいてはコロナ感染まで、予防における重要なキーワードは「炎症」です。次回は「口腔内の炎症による影響」をテーマに見ていきましょう。

 

 

橋村 威慶

サッカー通りみなみデンタルオフィス 院長

 

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※本記事は、オンライン診療対応クリニック/病院の検索サイト『イシャチョク』掲載の記事を転載したものです。