開業医は高収入であることが多く、個人の資産について税金対策が必要なことはもちろん、医院の資産も相続対象となることから、相続対策をしなければ「個人資産+医院資産」に対して巨額の相続税が課せられることになります。そこで、多賀谷会計事務所の宮路幸人税理士が、開業医が50代から始められる「相続対策」の具体的な方法を解説します。

対策の前に…まずは「相続の全体像」をイメ-ジ

開業医にとって相続税対策は必須ですが、税金のことだけ考えていてはうまくいきません。 誰を後継者にし、誰にどの財産を継がせるかなど相続全体のイメージをしっかり作らないと思わぬトラブルになることがあります。

 

後継者を誰にするか

開業医であれば、自身の医院は子や親族に継いでほしいと考える人が多いでしょう。しかし、重要なポイントとして、後継者候補の意向も確認しておく必要があります。

 

自身と後継者候補で専門分野が異なる場合や後継者候補が勤務医を続けたいと考えている場合、後継者候補が別の地域で活躍しており、医院を継ぐことに難色を示す場合など、さまざまなケースが考えられます。 他の相続人も含めて、家族全員でしっかり話し合いの機会を持つことが大切です。

 

後継者以外の相続人への配慮

医院の世代交代を考えるとき、誰を後継者にするかということに重きを置きがちです。しかし、後継者以外の相続人に対する配慮もおろそかにしてはいけません。 相続人には、法律上自分のものとして主張できる財産の割合があり、これを遺留分といいます。

 

子が相続人となる場合、遺留分は子の法定相続分の2分の1です。2019年7月1日以降に被相続人が亡くなった場合、遺留分が請求されれば原則として後継者が遺留分に相当する金銭を支払う必要があります。家族間でトラブルにならないよう、十分配慮しなくてはなりません。

生前にできる具体的な「相続税対策」

巨額の相続税がかかれば相続人の負担になるだけでなく、医院の経営に悪影響を与えるおそれもあります。それでは相続税の支払いを抑えるにはどうすればよいでしょうか。節税に活用できる税制をご紹介します。

 

生前贈与と相続時精算課税

まず、贈与税は、1月1日から12月31日までにもらった財産額が合計110万円以下なら課税されないため、110万円以下の贈与である場合、贈与税の負担なしに贈与することができます。

 

ただし、贈与者が贈与されたことを知らない、通帳の管理を親が行っている、などの場合は、税務署が贈与を否認することとなります。否認されることを避けるには実質的に贈与を受けたという証拠が残るよう親子間で贈与契約書を作り、金銭は銀行振り込みで渡す方法がよいでしょう。

 

また、たとえば「10年間で1,100万円を贈与する約束を結んだ」とみなされてしまうと毎年110万円ずつ贈与しても贈与税がかかります。贈与額や贈与時期を毎年変えるなど工夫しましょう。

 

次に、相続時精算課税は、合計2,500万円まで非課税で贈与できるようにする制度です。相続時精算課税を選択すると、贈与時の価格をもとに、相続の時点で相続税が課税されるため、課税時期を遅らせているだけともいえますが、権利を確定させるという意味においては有効となります。

 

なお、贈与のあと、相続の時点までに土地などの時価が上昇した場合、相続税は減少し、節税効果があります。しかし、時価が下落した場合は逆となります。

 

相続時精算課税制度のデメリットはほかにもあり、一度相続時精算課税を選択すると110万円の非課税枠を使えなくなるほか、相続時精算課税制度を利用して贈与を受けた土地は相続税の節税となる「小規模宅地等の特例」を利用できません。税理士に相談のうえ、慎重に判断してください。

 

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本記事は、「医療と生きる人々が、生の情報で繋がる」をコンセプトにシャープファイナンス株式会社が運営する医療プラットフォーム『Medical LIVES』のコラムより、一部編集のうえ転載したものです。