資産形成の第一歩は家計を知ることから。今回は厚生労働省『令和2年賃金構造基本統計調査』などをもとに、パワーカップルの住宅事情について見ていきます。
年収1,000万円のパワーカップル…頑張って「タワマン購入」の先に待つ悲惨 (※写真はイメージです/PIXTA)

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タワマンに興味を失くした富裕層…新たなターゲットは「パワーカップル」

東京五輪に向けての熱狂と、増加の一途を辿るインバウンドで、どこかバブルの様相を呈していた日本の不動産。未曽有のコロナ危機のなか、落ち着きを取り戻した感はあるものの、新築マンションの価格はバブル超え。都心だけでなく、郊外の駅前でも商業施設と一体化したタワーマンションが計画され、「こんなにタワーマンションばかりできて誰が買うのだろう?」と疑問に思う人も多いでしょう。

 

もともとタワーマンション、特に価格の高い高層階は、ニューリッチと呼ばれる、自身で財を築いて富裕層の仲間入りをはたした人たちが主な購入者でした。しかしここにも、あそこにもタワーマンションができた昨今、タワーマンション自体の希少価値は下がり、富裕層は居住という目的では興味を失くしているといわれています。そこで新たにタワーマンションの購入者となっているのが、パワーカップルと呼ばれる人たちです。

 

どこか強そうなイメージのパワーカップルですが、明確な定義はなく、共働きで収入を合算すると平均以上の夫婦。その収入は700万円としたり(ニッセイ基礎研究所)、1,000万円だったり(三菱総合研究所)とさまざま。ただ平均以上の世帯年収を得ているからか、購買力は旺盛。そんなカップルに「ここからの眺望、凄いでしょ」とささやけば……少々無理をしてでもタワーマンションの高層階をお買い上げ、というわけです。

「計画的なタワマン購入」は現実的ともいえるが…

ただ世帯年収の高いパワーカップルとはいえ、タワーマンションの高層階など購入できるものでしょうか。もちろんピンキリですが、タワーマンションの高層階といえば億ションというのも普通です。

 

よく「住宅購入は年収の5倍まで」といわれています。これは国が住宅購入を進めるにあたり掲げたスローガンに由来します。5倍を超えると、一般的にローンによって家計が逼迫するとされています。

 

また国土交通省『令和2年度住宅市場動向調査』によると、分譲マンションの購入資金総額は平均4,638万7,000円。そのうち自己資金の割合は平均34.3%でした。つまり物件価格に対して6割強はローンを活用したということになります。

 

厚生労働省『令和2年賃金構造基本統計調査』によると、大卒男性会社員の平均年収は613万3,399円、大卒女性会社員の平均年収は451万0,800円。ともに大卒の共働き夫婦であれば、世帯年収1,000万円超えのパワーカップルになりうるというわけです。

 

【大卒男性の平均年収の推移】

「20~24歳」3340700円

「25~29歳」4404900円

「30~34歳」5234900円

「35~39歳」6103500円

「40~44歳」6876100円

「45~49歳」7586400円

「50~54歳」8690100円

「55~59歳」8356100円

「60~64歳」5692200円

「65~69歳」4905100円

 

【大卒女性の平均年収の推移】

「20~24歳」3223500円

「25~29歳」3974100円

「30~34歳」4394200円

「35~39歳」4769100円

「40~44歳」5009400円

「45~49歳」5405900円

「50~54歳」6073700円

「55~59歳」5910600円

「60~64歳」4552200円

「65~69歳」4636000円

 

出所:厚生労働省『令和2年賃金構造基本統計調査』より算出

 

 

ちなみに夫の年収が600万円(ボーナス有)であれば、毎月の手取り額は28万円程度、妻の年収が400万円であれば、毎月の手取り額は20万円程度。月48万円程度が家計の原資となります。

 

そんなパワーカップルが、1億円のタワーマンションを購入したとしましょう。住宅ローンは物件価格の65%、つまり頭金として3,500万円は用意したとします。なお諸経費などは今回は考えないとします。

 

利息は992万4,391円となり、返済総額は6,992万4,391円、月々の返済は5年間は15万8,417円、以降は16万7,832円となります。3,500万円の頭金を払ったならば、月15万~16万円の返済。楽とはいえませんが、ありえる返済プランといえるでしょう。

 

【シミュレーション(1)】

■物件価格:1億円

■借入金額:6,000万円

■返済方式:元利均等

■金利:5年間は0.6%、以降は1%と想定

■返済期間:35年

■月々返済額:当初5年間15万8,417円、6年目以降16万7,832円

 

ただ3,500万円もの頭金を用意してタワーマンション購入を決めるような計画性のあるパワーカップルがどれほどいるでしょうか。

 

同じ条件で、借入金額を8,000万円とすると、返済はどうなるのでしょうか。利息だけで1,323万2,576円となり、返済総額は9,323万2,576円。月々の返済は当初5年は21万1,223円、5年目以降は22万3,776円となります。

 

【シミュレーション(2)】

■物件価格:1億円

■借入金額:6,000万円

■返済方式:元利均等

■金利:5年間は0.6%、以降は1%と想定

■返済期間:35年

■月々返済額:当初5年間21万1,223円、6年目以降22万3,776円

 

さらに老後を見据えた貯蓄も必須でしょう。日本の平均的な貯蓄率は38%程度といわれています。前出のパワーカップルが、億ションも、将来のための貯蓄も実現しようとなると、残りは8万円程度。これで食費などの生活費はもちろん、子どもがいるなら教育費もまかなう必要があります。あまりに非現実的であることは明白です。

 

世帯年収が平均よりも高く、購買意欲も高いパワーカップル。タワーマンションの暮らしに憧れて、モデルルームに行ってみたら、営業マンから自意識をくすぐられる言葉をかけられ、思わず高層階の億ションを購入……そのようなパターンは多いでしょう。しかし身の丈以上の暮らしの先には、家計破綻しかありません。