(※写真はイメージです/PIXTA)

マイホームであれ、賃貸アパートの一室であれ、自宅・自室は住人の命と生活を守る大切な場所です。しかし、メンテナンスされていない築古物件の場合、安全面に深刻な懸念が残ります。もし賃貸物件が破損・倒壊すれば、オーナーは大変な責任を背負い込むことになります。本連載では、収益不動産の法律問題に詳しい新麴町法律事務所の桝井眞二弁護士と、パナソニック ホームズの榎本克彦氏との対談により、築古収益物件のリスク解決と大規模修繕による収益向上について見ていきます。

住民を災害から守り切れない「築古物件」

近年、深刻な自然災害が頻発しています。2021年も、7月に静岡県熱海市伊豆山地区で大規模な土砂災害が発生しましたが、10月には千葉県北西部が震源の地震に見舞われ、東京区部も2011年の東日本大震災以来となる、震度5強の揺れを観測しました。

 

当然、老朽化した築古物件は自然災害に対して脆弱ですが、なかでも「耐震性」に着目すると、建物が建設された時期によって明確な違いが存在します。新麹町法律事務所の桝井眞二弁護士は説明します。

 

 

「建築基準法では、一定の強さの地震が起きても建物の倒壊や損壊を回避できるよう、〈耐震基準〉を定めています。1950年から1981年までの建築物には〈旧耐震基準〉、1981年6月からは〈新耐震基準〉が適用されています。なお、2000(平成12)年にも基準が強化されています。1995年の阪神・淡路大震災では、旧耐震基準の建物を中心に倒壊による甚大な被害が発生しましたが、その後の地震でも、新耐震基準の建物にも被害が及んでいる事実があります。したがって、現行の基準を満たしていない建物は、大地震への耐性に関して不安を抱えているといえるでしょう」

 

さらに、パナソニック ホームズ特建営業センター所長の榎本克彦氏も補足します。

 

「旧耐震基準では、震度5程度の地震で建物が大きな被害を受けないことが前提となっていました。これに対し、震度6強~7程度の地震でも建物が倒壊しないことを求めたのが新耐震基準です。2000年に制定された現行の耐震基準では、新耐震基準に加えて基礎形状(地盤)の仕様についても条件が定められました」

 

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空き家状態の賃貸物件も、倒壊して周辺住民を巻き込むと大変なことになる(※写真はイメージです/PIXTA)

昨日買った中古物件が倒壊しても、責任は現オーナーに

築古の賃貸物件が地震で破損・倒壊し、入居者などが被害に遭った場合、オーナーの責任は重大です。桝井弁護士は指摘します。

 

「建物のオーナーは『工作物責任』を負うことが民法に定められています。『工作物責任』とは、土地の上にある建物や塀、石垣などの工作物の設置または保存に瑕疵(通常有するべき安全性の欠如)があった場合に、被害者が被った損害を賠償する義務のことです」(桝井弁護士)

 

 

「工作物責任」の重大さが克明にわかるケースとして、1999年9月20日に神戸地判で下された判例があります。阪神淡路大震災で神戸市内の賃貸用アパート(1964年建設)の1階部分が倒壊し、入居者のうち4名が死亡、複数名が負傷し、遺族らが損害賠償を求めて提訴したというものです。

 

このケースは、築古物件を相続した方・購入した方にとっても他人事ではありません。「自分が手にしたときには、すでに瑕疵があった」という釈明は通らないのです。老朽化物件への対処をしない限り、常に莫大な損害賠償のリスクがついて回ります。

 

中古で買った物件に瑕疵があっても、その責任はオーナーが負うことになる。
「工作物責任を負うのは現オーナーであり、いくら『自分が手にしたときには、すでに瑕疵があった』と釈明したところで、通らないのです」(桝井眞二弁護士)

「神戸地裁は、賃借人の死傷は地震という不可抗力によるものとはいえず、建物自体の瑕疵と想定外の揺れが競合してその原因となったと判断し、建物のオーナーに1億2900万円の支払いを命じています。想定を上回る自然災害に見舞われたとしても、建物に瑕疵があれば、オーナーは損害賠償責任を負うのです。しかし、このオーナーは新築当初から所有していたわけではありません。中古で購入した物件に瑕疵があり、『工作物責任』を負うことになったのです」(桝井弁護士)

 

「地震のリスクは建物の倒壊だけはありません。阪神淡路大震災の被害状況からも明らかなように、常に火災の発生とも隣り合わせです。築古物件の場合、耐火性能の面からもハイリスクであることは明確です」(榎本氏)

メンテナンス不足の築古物件は、常に事故と隣り合わせ

築古物件のリスクが表面化するのは、自然災害時ばかりではありません。経年劣化を放置した結果、ある日突然破損が生じて、重大事故につながる事態も考えられます。

 

「記憶に新しいところでは、2021年4月、東京都八王子市のアパートの外階段が崩れ、住民が転落死するという事故があげられます。事故が発生した木造賃貸アパートは築8年の物件ですが、報道によれば、外階段部分に当初の設計と異なる施工がなされており、つなぎ目が腐食して階段が落下したそうです。こうしたケースのみならず、経年劣化に伴う安全性の低下で、入居者や付近の通行人に被害が及ぶことがあります」(榎本氏)

 

 

地震などの自然災害時にはもちろんですが、平時から留意すべきものに賃貸物件を囲うブロック塀の崩壊があります。現在の建築基準法に適合していない状態でも違法ではありませんが、崩壊して被害が及んだ場合は話が別です。

 

「2018年6月の大阪府北部地震で、ブロック塀が倒れて下敷きになった女児が死亡するという痛ましい事故がありました。不動産オーナーには、所有物件を適切に維持・管理する注意義務が課せられていますから、同様の事故が発生すれば『工作物責任』として民事上において補償義務を負うことになります。現に、ブロック塀の倒壊で通行人が死亡した複数の事故で、オーナーの責任を追及する裁判が起こされています」(桝井弁護士)

問題の先送りは「将来的なリスク」を大きくするだけ

建築物にダメージを与えるのは、なにも記録的な大災害ばかりではありません。日々の紫外線や雨風、昼と夜の寒暖差等も建築物のダメージとなって蓄積していきます。そもそも地上に建設・固定されている以上、これらを完全に避けることはできないのです。

 

「通常、建築から20年経過した建物には大掛かりなメンテナンスが必要ですが、たいていのオーナーは、解決を急ぐトラブルでもない限り、先延ばしにしてしまいがちです。しかし、目に見えないだけで、その間も確実に劣化が進んでいるのです。たとえば、風雨や紫外線で屋根の表面の塗装が剥がれると、ヒビ割れや木材の反りが生じやすくなります。そこから浸水し、屋根や壁にひどいダメージが広がることもあります。また、普段はあまり意識しない、建物の基礎の部分にシロアリが住み着き、気づかないうちにひどい被害を受けているケースも散見されます」(榎本氏)

 

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「たいていのオーナーは、解決を急ぐトラブルでもない限り、先延ばしにしてしまいがちです。しかし、その間も劣化は確実に進んでいるのです」(榎本克彦氏)

 

もしこのような事態が、旧耐震基準の建築物に発生したとすると、リスクは指数関数的に大きくなってしまいます。

 

「建築物の建て替えや大規模リノベーションには大きな出費を伴いますから、オーナーが躊躇するのも無理からぬことです。しかし、抜本的な解決策を講じないと、大げさではなく、人の命や財産を巻き込む大問題につながりかねません。結局、早急に思い切った手を打つことが、最もコストと時間の節約になり、オーナーの資産防衛と精神衛生にも有益なのです」(桝井弁護士)

 

 

 

パナソニック ホームズ株式会社
営業推進部 特建営業センター 所長
榎本 克彦

 

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