家賃収入はわずか、売却しても二束三文…「築古収益物件」に苦しむオーナーが激増中 (※写真はイメージです/PIXTA)

かつては高い賃貸料が得られた賃貸物件も、経年劣化すれば借り手が減り、収益も減少します。しかし、築古の収益物件は収益以前に、安全面に大きなリスクをはらんでいるため、放置は厳禁なのです。本連載では、収益不動産の法律問題に詳しい新麴町法律事務所の桝井眞二弁護士と、パナソニック ホームズの榎本克彦氏との対談により、築古収益物件のリスク解決と大規模修繕による収益向上について見ていきます。

高齢オーナーとともに「家賃ゼロ」で朽ちる収益物件

かつては安定的な家賃収入をもたらしてくれた賃貸マンション・アパート、そして貸店舗。しかし、そのまま老朽化が進めば「低収益物件」となるのは避けられません。古い物件は入居者が集まらず収益性も低下する一方、大掛かりな修繕が必要となり、費用面でも懸念が残ります。

 

パナソニック ホームズ株式会社 営業推進部 特建営業センター所長、榎本克彦氏
パナソニック ホームズ株式会社 営業推進部 特建営業センター所長、榎本克彦氏

多額の修繕費用の捻出にめどが立たず、「いっそのこと手放してしまおう」と思い立っても、収益性の低い「お荷物」が乗った土地の売却価格は査定が低くなりがちで、買い叩かれるケースもあります。

 

「とくに近年、都心で顕著になっているのは、老朽化アパートの建て替えラッシュです。しかし、問題解決のためにすぐ行動を起こせるオーナーばかりではありません。建て替えに踏み切ることを躊躇し、築古低収益物件を抱えたまま、身動きが取れなくなっているオーナーも少なくないのです」

 

警鐘を鳴らすのは、パナソニック ホームズ特建営業センター所長の榎本克彦氏です。

 

 

収益不動産の法律トラブルを数多く解決してきた、新麹町法律事務所の桝井眞二弁護士も言葉を重ねます。

 

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新麹町法律事務所 弁護士 桝井眞二氏

「極端なケースになると、入居者ゼロの状態で家主も高齢となり、そのまま放置されて〈空き収益物件〉になることもあります。今後一層増えるであろう、深刻な社会問題です。しかし、本題はそこではないのです。一般住宅の空き家問題は、相続人が金銭的な苦労を背負い込むという、いわば親族間のトラブルの範囲ですが、収益物件の場合はまったくレベルが異なります。万一、災害による倒壊や不審火で入居者などに死傷者が発生すれば、オーナーはその責任を追及されます。老朽化した収益物件の恐ろしさを、多くのオーナーは理解していません」

 

面倒事の先送りが、自分ばかりか、居住者、周辺住民を巻き込む大問題に発展するリスクになるのです。

ローン完済&減価償却終了で、所得税が重くなる

いずれにしろ、まず課題解決のために検討すべきは資金面でしょう。ただし、マイホームと収益物件では、資金の調達方法や活用法に、根本的な相違点があります。

 

 

マイホームなら、ローンを完済すれば毎月の家計は楽になります。しかし、賃貸併用住宅や賃貸マンション・アパートといった収益物件の場合、かなり事情が異なってきます。収益物件を所有されている方はよくご存じの「減価償却」という会計上のルールにより、節税効果を得られるほか、ローンの返済も所得税の圧縮に効果を発揮するので、減価償却期間の終了やローン完済は手放しで喜べるものではありません。

 

「法律で定められた減価償却の期間は、木造アパート22年、軽量鉄骨造27年、重量鉄骨造34年。主な設備は15年です。ローンは最長でも35年が主流ですから、返済を終える前には、減価償却も終わっているケースが多いでしょう。そうなると、ローン完済と減価償却終了によって名目上の収入が増え、結果的に所得税の負担が増してしまいます」(榎本氏)

 

読者のなかには「返済終了すれば家賃収入をフルで享受できるはずでは?」と、首をひねる方もいるかもしれません。確かに理論上はそうなりますが、昔の建物は、ローンを完済する頃には、新築時同様の稼働率は期待できません。いわゆる「築古物件」となり、入居者に敬遠されがちなのです。

 

「リフォーム等の対策をきちんと講じていない物件は、築年数に比例して空室率も上昇する傾向が見て取れます。通常、賃貸マンション・アパートは、自己利用のケースと比較して相続時に評価額が下がり、その分だけ税負担を抑えられるのですが、長期間空室が続いていると、賃貸割合の計算により、評価減の対象とならず、節税効果が低下する恐れがあります」(榎本氏)

その場しのぎの修繕で、物件の魅力が失われ…

一般的には、築20年以上が経過すると大掛かりなメンテナンスが必要になるといわれています。築古の収益物件は、ただでさえ満室経営が困難なのに、さらにその場しのぎの「プチ修繕」を繰り返せば、小さな持ち出しが増えて収益性が低下するばかりか、建物の外観や内装の魅力も損なわれてしまいます。

 

 

築古の建物を建設した当初と現在を比較すれば、トレンドの変化は明らかです。人々の生活スタイルや嗜好にも、相当な差異が生じています。とくにコロナ禍以降の在宅勤務など、物件の建設当時は想定外だったでしょう。

 

1980~90年代には、大学そばに1室15m2~20m2程度のワンルームのアパートがたくさん建設され、入居者にも困りませんでした。しかし現在では、バス・トイレ・洗面が一体になった3点ユニットの物件は、家賃を下げてもなかなか入居してもらえません。

 

まず、入居者として想定される若年層が、建設当初と比較しても激減していますし、去年以降はコロナ禍で移動が制限され、多くの人が快適な居住空間を求めるようになりました。以前は活発な学生や若手ビジネスマンたちの「寝る場所」として機能すれば十分だったアパートも、いまとなっては入居者の要望を満たすには不十分であり、いくら内装をきれいにして家賃を下げたところで、入居希望者の求めるものにはならないのです。

 

「だからこそ、抜本的な問題解決が必要です。建て替えを視野に入れるなら、時代に見合った魅力的な賃貸物件にすることができますし、結果、満室も十分に期待できます。建設費をローンで調達すれば、新たに借入金金利と減価償却費を計上できるので、所得税の負担も抑えられます」(榎本氏)

 

★COLUMN★
コロナ収束後も「在宅ワーク」のニーズは大きく


新型コロナ対策による「テレワークの実施率」の推移と「コロナ収束後のテレワーク継続希望率」を見ると、コロナ禍以降、住まいに求めるニーズは在宅ワークも想定したものに大きく変化しているといえます。
 
出典:パーソル総合研究所「第四回・新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査(約2万人対象)」2020年11月
テレワーク実施率 出典:パーソル総合研究所「第四回・新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査(約2万人対象)」2020年11月
 
出典:パーソル総合研究所「第四回・新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査(約2万人対象)」2020年11月
コロナ収束後のテレワーク継続希望率 出典:パーソル総合研究所「第四回・新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査(約2万人対象)」2020年11月

築古物件の建て替えは「財産と命の保全」に不可欠

賃貸物件の老朽化が目立つということは、次代に継承していない限り、家主も高齢である可能性が高いといえます。もしそうなら、老後資金に不安があり、建て替えには消極的だと考えられます。しかし榎本氏は、問題解決は可能であると明言します。

 

「立地がよく、築古になる前にそれなりの入居者があったなら、オーナーが高齢でも建て替えに事業用ローンを活用することが可能です。以降は、収益性が改善した物件の家賃収入をローン返済に充てるのです」(榎本氏)

 

ローン返済が完了しない段階で、オーナーに万が一のことがあっても、相続人には優良資産を承継させられます。賃貸不動産は相続税評価額が低くなるだけでなく、ローン残債が差し引かれるので、相続人の税負担も軽減されます。

 

あああ
老朽化した賃貸物件の放置は、収益面のデメリットだけでなく、法的な面からも大きなリスクをはらんでいることに、オーナーの多くは気づいていない。

 

築古物件の建て替えは、収益性の改善や節税効果が期待できる一方、老朽化したまま放置することが、さまざまな問題を招くことになると、桝井弁護士は指摘します。

 

「築古物件は収益性や節税効果が劣るだけでなく、法的にもオーナーに不利益をもたらすリスクがあります。たとえば、修繕や建て替えの必要がある物件を抱えたままオーナーが認知症になれば、必要な工事に取り掛かれないばかりか、家族(将来の相続人)が処分を進めることもできません。また、築古物件は自然災害による倒壊リスクが高く、その際にオーナーが負う法的責任は、非常に重いのです。とくに近年は自然災害が多発しており、築古のまま放置しておくのは大変危険です」(桝井弁護士)

 

建て替えにあたっては、相続までを見越した資産防衛策と、賃貸物件の入居者の安全を視野に入れることが求められます。

 

「家賃設定を下げざるを得ない築古物件は、入居者リスクも心配です。家賃滞納問題や入居者トラブルが起こりやすく、また、建て替え時の立ち退き交渉も揉めがちだからです。体力のない高齢オーナーでは対応に苦慮することになりますし、また、自身の認知症リスクもあります。判断能力が低下すれば、建て直しの計画も難航しますし、無策のまま認知症の認定を受けてしまうと、家族が計画を代行することも困難になります」(桝井弁護士)

 

このように、オーナーが必ず知っておくべき築古物件にまつわるリスクは広範囲にわたります。次回以降、リスクの詳細と対応策について詳しく解説していきます。

 

 

パナソニック ホームズ株式会社
営業推進部 特建営業センター 所長
榎本 克彦

 

新麹町法律事務所
弁護士
桝井 眞二

 

 

パナソニック ホームズ株式会社 営業推進部 特建営業センター 所長

1985年、ナショナル住宅産業(現・パナソニック ホームズ)入社。

埼玉・鳥取・新潟・東京・千葉地区と、部門責任者を歴任。受賞歴多数。35年間にわたり、一貫して顧客の問題と向き合い、解決してきたことを何よりの強みとし、社内においては資産活用事業建築の第一人者との評価を得ている。

賃貸住宅や分譲住宅をはじめ、定期借地権分譲、複合施設、医療・介護施設、保育園、ホテル、多層階建築など、ほぼすべての分野の建造物の受注経験を持つ。

自らも複数の賃貸物件を保有し、賃貸運営の奥深さ、社会的意義とともに、オーナーとしての責任ややりがいも体感。その実体験をもとに行う親身なアドバイスにより、地主様・家主様から絶大な信頼を寄せられるほか、オーナー様・入居者様の立場に立った課題解決案・改善案の提案により、社内外から高い評価を得ている。

著者紹介

新麹町法律事務所 所長(共同経営者)
弁護士

大学4年在学中に司法試験合格。
昭和57年、東京弁護士会に弁護士登録。

現在は、新麹町法律事務所の所長(共同経営者)として、27名の弁護士を束ねる。
不動産関係、相続、一般民事、大型刑事事件等を手掛けている。

著者紹介

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