飛行機代、宿代、食事代…旅にかかる費用すべてを含めて「12万円」で世界を歩く。下川裕治氏の著書『12万円で世界を歩くリターンズ タイ・北極圏・長江・サハリン編』(朝日新聞出版)では、その仰天企画の全貌が明かされている。本連載で紹介するのは北極圏編。一行はついに今回のルートの最北端、北極圏の「トゥクトヤクトゥク」に辿り着いた。その達成感はというと…。
先住民「政府からの援助は酒代に」村の残酷な実態【北極圏への旅】 (※写真はイメージです/PIXTA)

先住民の街「イヌビク」にサケが無かった衝撃の理由

イーグルプレインズで1泊し、その次の日は、ペリークロッシングの村のモーテルに泊まった。ノースウェストテリトリーズからユーコンテリトリーに入ると、気温があがり、太陽も明るくなる。

 

ペリークロッシングのガソリンスタンド兼売店の前で座っていると、ひとりの男が声をかけてきた。タッチョーネだといった。先住民の一部族だった。

 

「来月になるとサケが遡上してくる。三波に分かれてあがってくるんだ。それはすごいよ。でもね、資源保護の目的で漁獲量は厳しく制限されているんだ」

 

「捕ったサケは売るんでしょ」

 

「政府が全部買っていく」

 

イヌビクのスーパーにサケがないのはそのためかもしれなかった。

 

「環境を守ることは大切だからね」

 

話していると、山から銃声が聞こえた。猟をしているようだった。彼の体がぴくッと動いた。彼は先住民だった。

 

総費用は24万8683円もかかってしまった。30年前に比べ、ガソリン代やレンタカー代があがり、ホテル代も2倍以上に値あがりしていた。これが堪えた。

 

 

下川 裕治

旅行作家