株を借りて売る「空売り」では、権利付き最終日(権利確定日)にその株を返済していない場合、「配当落ち調整金」というコストを支払う必要があります。また権利付き最終日の直後は株価が下落しやすい傾向にあります。単純に考えると空売りで利益を出すことができそうですが、果たして、そんなに上手くいくものでしょうか。
「権利確定日に空売りすれば儲かる」は本当か?【投資のプロが解説】 ※画像はイメージです/PIXTA

「信用取引」と「配当」と「配当落ち調整金」

信用取引には、証券会社にお金を借りて株を買う「信用買い」と、株を借りてそれを売る「信用売り(空売り)」があります。ともに借りたお金または株を期日までに返済する必要があります。信用買いは自己資金以上の取引ができるため大きなリターンを望めるのが特徴で、空売りは売った株が下落したときに買い戻して返済すれば差額を利益にできる、すなわち株価下落時に利益を出せるのが特徴です。

 

さて、現物買いをしている場合、株を所有した状態で権利付き最終日(権利確定日)を越せば、後に配当金を受け取ることができます。ところが信用買いをしている場合は、買い建てた株は借りたお金の担保であり実際の所有者が証券会社であるため、買い方(=信用買いをした人)は配当を得ることができません。また、空売りした株はすでに手元にないため、当然ながら売り方(=空売りをした人)も同じく配当を得ることができません。

 

その代わりに、買い方は「配当落ち調整金」という配当金相当のお金を、企業が株主に配当を支払うのと同じタイミングで、証券会社から受け取ることができます。これは、配当金から源泉徴収税額相当分を控除した後の金額となります。なお、この収入は税法上配当所得には区分されず、税率が15.315%(令和3年現在)となっています。

 

一方、売り方は、株所有者である証券会社が配当を得られなくなるため、逆に同じタイミングで配当落ち調整金を証券会社に支払う必要があります。なお、一般信用取引での空売りに限った場合、源泉徴収税額相当分は控除されず、配当金額がそのまま配当落ち調整金額となります。

空売りしたまま権利付き最終日を越す際には注意が必要

現物買いでも信用買いでも、その状態で権利付き最終日を越せば、後に配当金または配当落ち調整金を受け取ることができます。この点に、さほど注意は要らないでしょう。現物でも信用でも、買っている株には配当またはそれ相当のお金がつく、と考えておけばよいのです。

 

ところが、空売りした状態で権利付き最終日を越した場合は逆に、配当金に相当する「配当落ち調整金」を後に支払わなければなりません。この点は、非常に注意が必要です。その分の現金が確実に必要となりますし、支払いをしたくなければ権利付き最終日前に株を返済する必要があります。