これまで52の新規事業を立ち上げてきた「起業のプロ」守屋実氏は、「本業が強い大企業ほど新規事業の立ち上げに失敗する」といいます。その要因について見ていきましょう。※本連載は守屋実氏の著書『起業は意志が10割』から一部を抜粋・再編集したものです。
なぜ「本業が強い大企業」ほど「新規事業に失敗」してしまうのか? (※画像はイメージです/PIXTA)

大企業の「優良で強靭な本業」が新規事業の足かせに

「3つの切り離し」とは、大企業の中で新規事業を立ち上げる前に3つほど切り離すものがあるという学びだ。

 

大企業には、大企業にまで成長を押し上げた優良で強靱な本業がある。その本業が強ければ強いほど、そして長年続けていればいるほど、組織の隅々、参画者の全員が、「本業組織、本業人材」となっている。

 

これは至極当然のことだし、だからこそ、その本業が強くあり続けることができる。一方、当然ながら新規事業は本業ではない。つまり、本業≠新規事業、本業組織≠新規事業組織、本業投資≠新規事業投資、ということになる。

 

この当たり前の構造が起因して、新規事業はすべて「本業の汚染」に遭っている。だから、新規事業を本業から切り離す必要があるのだ。

大企業には「3つの切り離し」を実現できない訳がある

「3つの切り離し」の3つは、資金、意思決定、評価である。「資金」を切り離すとは、単年度会計から新規事業を切り離すということである。多くの企業は当年4月〜翌年3月の「期」で動いている。

 

だから事業の計画も、組織の計画も、4月〜3月を1つの区切りとする。これは企業の理屈であって、顧客には何の関係もない。

 

あくまで単なる会計上の区切りでしかないのだが、その区切りをもって、メンバーが変わり、上司が変わり、上司の上司が変わり、方針が変わることがある。その結果、予算が大きく変動する。

 

つまり年度ごとに、これまで進めてきたことが止まり、頓挫し、もしくは時計の針が1年戻るようなことが起こる。単年度会計は、微に入り細に入り、ありとあらゆることに影響がある。

 

「意思決定」を切り離すとは、会議体から切り離すということである。大企業には、ミルフィーユのような会議体がある。現場での会議、上司との会議、上司の上司との会議……と何層にも重なるミルフィーユだ。

 

一方、新規事業は、その事業が初期段階であればあるほど、顧客のそばにいる最前線の人間が、その時その場の意思決定でどんどん動いていくべきである。

 

しかしながら、大企業内の新規事業ではそうはいかない。上司への報告や、上司の上司への報告をするために、丁寧なパワーポイントを用意する必要がある。

 

会議体の格が上がれば上がるほど、社内向け作業の負担は大きくなり、新規事業を担当する部署自らの判断だけでなく、事前の関係部署への根回しや、経理や財務への確認、経営企画室の添削など、起案の前段階での実質的な承認の取り付けが必要となる。

 

そこまでして準備しても会議出席者は、その事業の顧客でもなければ、起業の経験者でもない。実のある議論ができるような状況ではないのだ。新規事業の立場から考えると、その時間があったら1人でも多く顧客を訪ねるべきである。

 

「評価」を切り離すとは、減点主義から切り離すということである。大企業の出世レースでは、可能な限り失敗を回避したい。出世コースから外れたくないし、寄り道もしたくない。

 

しかしながら、新規事業はうまくいかなくて当たり前だし、試行錯誤、悪戦苦闘の連続である。この相性は、相当悪い。人事の平等性など、全社視点でいうといろいろあるのだろうが、新規事業については失敗しても手を挙げた時点でマル、もし事業を成功させていたらハナマルだというくらいがちょうどよい。

 

もちろん、単なる評価ではなく、事業の責任者クラスには事業の成功の度合いに応じた利益分配的な報酬制度や、さらには、分社化したうえでの株式保有など、創業経営者であればごく普通で当たり前の仕組みもセットにして評価したい。

 

僕はこの3つの切り離しをおこなうことはめちゃくちゃ大事だと思っている。が、それがなされることは、ほぼない。それは、単なる新規事業施策というよりは、会社の基本設計に触れる部分でもあるからだ。

 

結果、検討の俎上(そじょう)に載ることすらなく、従前通り時が過ぎる……。失敗の山が消えることはない。