これまで52の新規事業を立ち上げてきた「起業のプロ」守屋実氏は、「本業が強い大企業ほど新規事業の立ち上げに失敗する」といいます。その要因について見ていきましょう。※本連載は守屋実氏の著書『起業は意志が10割』から一部を抜粋・再編集したものです。
なぜ「本業が強い大企業」ほど「新規事業に失敗」してしまうのか? (※画像はイメージです/PIXTA)

大企業は外だけでなく「社内と戦う機能」が必要である

「2つの機能」とは、大企業の新規事業組織は、事業を立ち上げる機能よりもむしろ社内と戦う機能が必要だという視点である。

 

本来は新規事業なのだから、外に目を向けるべきである。顧客の声に耳を傾け、敵の動きを察知し、外で戦うための組織であるべきだ。しかし、「3つの切り離し」でも書いた通り、現実はそうはなっていない。本業の延長線上の新規事業となっている。

 

だから、外戦部隊だけでなく、内戦部隊も必要となってしまうのだ。新規事業の最前線で戦っている仲間のために、環境を整える必要があるということである。

 

新規事業の現場で何が起こっているのか、本業のみんなに知ってもらい、力を貸してもらうための社内広報活動人材が必要だ。この機能がないと、せっかくの社内リソースを活用することができず大企業の有利を発揮できない。

 

既存事業部は、新規事業に協力しても、労力だけ使い評価にはつながらないから協力するインセンティブがない。そこをどうにかして協力を取り付ける社内交渉機能が必要なのだ。

 

戦いの結果から得た知見を、次に活かすための記録として可視化、そして新規事業が生み出され続ける文化をつくる必要がある。この機能がないと、せっかくの経験値を蓄積することができず、いつまで経っても「初めての新規事業」になってしまう。

 

担当者が替わるたびに、同じ失敗の上塗りをしてしまうのだ。だからこそ、「2つの機能」が必要なのである。

「社内のエース」を新規事業立ち上げに参画させるべき

「1人の戦士」とは、大企業の新規事業人材は、その企業における経営者候補であるべきだということである。

 

新規事業の勝負の分かれ目は、そうそう経験できることではなく、その経験は経営者候補の人材として間違いなく鍛錬となる。大企業になればなるほど、参画者の担う領域は狭くなってしまう。

 

たとえば、マーケティング本部長という立場は社内では「偉い人」かもしれないが、見ている範囲はマーケティング費という経費のひとつにすぎない。

 

一方、新規事業の責任者は、マーケティング本部長よりも予算の桁は2つも3つも小さくなるかもしれないが、損益計算書(PL)はもちろん、バランスシート(BS)もキャッシュフロー計算書(CF)も見ることになる。この圧倒的な視野の広さが、経験の質を変える。

 

だから、意志ある経営者候補の人材を躊躇なく投入する必要があるのだ。「3つの切り離し」ほどではないが、この「2つの機能」と「1人の戦士」も、なかなかなされることはない。

 

2つの機能を持てない理由は「新規事業にリソースをそこまで回せない」からであり、1人の戦士が立ち上がれない理由は「エースに異動されたら本業が困る」からである。

 

結果、検討の俎上に載ることは稀で、従前通りのまま時が過ぎることが多い。やはり、失敗の山が積み上がることからは逃れられないのだ。

 

■ポイント■
大企業の失敗には、共通の原因がある。「3つの切り離し」「2つの機能」「1人の戦士」を取り揃えろ!

 

 

守屋 実

株式会社守屋実事務所

代表