新型コロナウイルスの感染拡大で「医療危機」が叫ばれた。それは主に重症患者などを受け入れる感染症指定病院のベッドや医療従事者が不足する事態を指すが、同時に問題となっているのがクリニックにおける患者の減少だ。特に開業10年以内のクリニックには資金繰りが安定していないところもあり、コロナ・ショックが大きな影響を及ぼす。開業10年以内のクリニックでなぜ資金繰りが不安定になるのだろうか。中小企業の資金調達をサポートするTranzax株式会社の大塚博之代表取締役社長と藤崎聡総合企画部長にその背景を伺った。

コロナで医療現場は逼迫…クリニックは経営難が加速!?

新型コロナウイルスの大規模な流行を受けて、世界経済が大打撃を受けている。患者の増加により医療現場は逼迫し、連日、医療崩壊の危機が報道された。

 

一方でクリニック(診療所)では、経営破綻の心配がされた。中小企業の資金調達をサポートするTranzax株式会社の大塚博之代表取締役社長は「不要不急の外出を控えたり、クリニックでの感染を恐れたりする人が増えているから」と説明する。

 

「我々もクリニックの経営が厳しいという話を各所で聞いています。大阪府保険医協会がこの4月、新型コロナウイルスの影響について診療所や病院へ緊急アンケートを実施したところ、診療所では外来患者数が「減った」との回答が8割を超えていたそうです。あるいは『日経メディカル』がオンラインの医師会員を対象に3月に行った緊急調査では、前年同期と比べて患者数が減っているという回答が全体の5割を超えていたそうです。診療科別でいうと、小児科、整形外科、消化器内科の順で影響が大きいという結果でした」(大塚)

 

ここで医療機関について、おさらいしておこう。一般的に医療機関は「病院」と「クリニック」(診療所、医院)の2つに分けられる。病院は複数の診療科と20以上の病床を持ち、大規模病院や地域医療を支える中核病院、地域密着型病院などに細分される。一方クリニックには、病床数が1~19の有床診療所と、病床を持たない無床診療所のほか、歯科診療所がある。

 

厚生労働省が行っている『医療施設調査(2018年度)』によると、病院は8,493施設に対し、クリニック(有床診療所と無床診療所の合計)は102,105施設、歯科診療所は68,613施設となっている。その数からも、クリニックがいかに私たちの健康を支える身近な存在であるかがわかるだろう。そのようなクリニックがコロナ・ショックに直面し、経営が厳しくなっていく施設が増えていくのだろうか。

 

「必ずしもそうではありません。厚生労働省の『医療経済実態調査(2018年度)』では、一般病院の損益差額はマイナス2.7%で赤字基調が続く一方、一般診療所の損益差額は29.9%であり、多くのクリニックは余力があるとみていいでしょう。

 

ただ、開業から10年以内のクリニックの中には資金繰りが安定していないところもあり、そういうクリニックに影響が及ぶ可能性は否定できません」(大塚)

開業から10年以下のクリニック…限られた資金調達法

クリニックは、開業から10年は資金繰りが安定しない――それは、なぜなのだろうか。同じくTranzax株式会社の藤崎聡総合企画部長は、クリニックの運転資金の問題点をあげる。

 

「クリニック開業時、約半分の院長は手元資金が乏しく、政府系の日本政策金融公庫の開業支援融資を頼ることが多いのですが、問題は開業後10年間の運転資金と設備資金です。運転資金は毎月の家賃や人件費、設備資金は新しい機器や道具の購入費です。

 

資金繰りでまず問題になるのは、運転資金です。なぜなら、開業してすぐ黒字になるクリニックはまずありません。患者さんが徐々に増えて損益分岐点を超えるには10年程度必要です。また、診療報酬が社保・国保から入金されるのは請求の約2ヵ月後なので支出が先行します。さらに開業融資の返済もあります。

 

次に問題になるのが設備資金です。小児科、耳鼻科、皮膚科、婦人科、心療内科などはあまり機器や道具を使わないので問題ないのですが、内科、消化器科、整形外科、産科、歯科などはレントゲンやエコーなど新しい機器や道具を、故障した場合も含め、適宜導入していかねばなりませんので、開業後10年以内かどうかに関わらず、まとまった資金が必要になります。

 

こうしたことから、開業から10年以内は資金繰りが安定しないケースが見られるのです」(藤崎)

 

診療報酬の入金までには時間がかかり、まとまった金額の設備資金も必要。そのため、開業から10年ほどは、資金繰りが安定しない――。クリニック経営は、我々が思っている以上にシビアな世界のようだ。ではクリニック経営者は、経営安定化のために、どのような対策を講じているのだろうか。医療機関で利用されている主な資金調達先は、金融機関、ファクタリング会社、リース会社の3つがある。

 

金融機関は、融資という形を取り、運転資金・設備資金両方に対応可能で、金利コストが低く、長期返済も可能だ。ただ、審査が遅いので、日中の診療で忙しい院長が求める資金調達スピードに追い付かない。

 

ファクタリング会社は、社保・国保向けの診療報酬債権を買い取る方式を取る。運転資金のみの対応で、スピードは速いが高コストだ。

 

リース会社は、運転資金・設備資金両方に対応。運転資金はファクタリング会社と同じく診療債権を買い取るもので、スピードは速いが高コストだ。設備資金はリース、簡単に言えば途中解約しづらい長期レンタルのようなもので、利便性もある反面、定価ベースでリース料を取られるため購入するより割高となったり、長期間拘束されるなどのデメリットもある。

 

「しかし開業から日の浅いクリニックは、資金調達法は限られています。なぜなら融資は審査に時間がかかったり、担保や保証が必要だったりと、開業から10年以内のクリニックではあまり利用できるものではないからです。そこでファクタリングやリースを活用するわけですが、どちらもコストは割高です。開業から日の浅いクリニックにとって、資金調達法は大変難儀なことだといえるでしょう」(大塚)

 

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