2018年後半~2019年は良くないニュースが相次いだ不動産業界。サブリースに関わる問題や銀行の不正融資、アパートの違法建築など、様々な不祥事で世間を賑わせてきた。そのようななか、不動産コンサルティング会社である株式会社TWS Advisorsは「三方よし」を理念に掲げ、すべての関係者が利益を享受できる経営を目指している。本連載では、株式会社TWS Advisorsの小野耕司社長に、同社の理念や方向性などを伺い、「三方よしの経営」について紐解いていく。最終回は、同社の今後の展望について話を聞いた。

2020年以降も不動産経営は成り立つのか?

2020年の東京オリンピック開催を見据え、東京の不動産市場は活況を呈してきた。その余波は全国に広がり、不動産価格の上昇を招いている。しかし、東京オリンピックの後はどうなるのか。オリンピックはあまりにインパクトが大きく、閉幕後はそれ以上に大きなトピックスがないことから、不動産価格は下落に転じるという見方が強い。

 

実際に、2019年7月度の首都圏新築マンション供給戸数は前年同期比35.3%の減少であり、すでにピークは過ぎ、下り坂に入ったと報道もされた。東京の不動産価格はバブル的な様相を呈し、いよいよ弾けてしまうのではないか、という不安を感じている投資家も多い。

 

また国内の人口減少、それに伴う内需の縮小も、不動産業界に影を落としている。絶対的にニーズが減るのだから厳しくなるのは明白、という観測だ。一方で、外国人の積極的な受け入れ、増え続けるインバウンド需要などが、内需の縮小を穴埋めし、不動産価格は大きく落ち込まない、という見方もある。

 

果たして、東京オリンピック後の不動産市場はどうなっていくのだろうか。

 

そのようななか、有望なジャンルとして「戸建て」と独自の見解を述べるのが、株式会社TWS Advisors代表取締役社長の小野耕司氏だ。人口減少が見込まれるなか、そこにはどんな勝機があるのだろうか。

 

東京五輪後、注目するのは戸建て住宅 ※写真はイメージ
東京五輪後、注目するのは戸建て住宅 ※写真はイメージ

 

トップインタビュー

建築費の下落、その先に「戸建て需要」の高まりがある

――東京オリンピックの不動産業界への影響は、どのようにお考えですか?

 

株式会社TWS Advisors代表取締役社長 小野耕司氏
株式会社TWS Advisors代表取締役社長 小野耕司氏

東京オリンピックは、3週間限定のイベントです。それに対してインフラの整備が進み、ホテル不足が懸念されています。しかし私たちは、土木業をやっているわけではないですし、ホテルを持っているわけではない。そもそも東京オリンピック自体は、私たちとは関係の薄い話なのです。

 

むしろ、東京オリンピックの終了がプラスに働くのでは…という思いがあります。すなわち、鉄骨不足と現場監督不足の解消です。いまはインフラ整備に多くが割かれ、建築費用も高騰していますが、それが一気に元通りになると見ています。

 

建築費が下落に転じれば、当然、不動産価格に反映されるので、消費者メリットも大きいのではないでしょうか。だから私たちは、不動産業界の未来を悲観的に捉えていません。建築コストが下がれば、建物は建てやすくなるのですから。

 

――都心部の不動産は、これから、どのように変化していくとお考えですか?

 

東京の不動産は、現状すごく割高だと考えています。実際に、今年7月の新築マンションの販売数は、前年比マイナス35.3%で、販売、そして実際に着工数も減っています。現在、23区内の新築マンションの平均価格が7300万円、都内全域の平均が5500万円です。

 

私はバブル入社組とされる世代ですが、当時の平均年収が約600万円で、今は400万円ほどです。不動産を購入できる価格は年収の11倍とも言われていますから、マンションの値段がこれだけ上がっていれば、一般の人は買えるはずがありません。

 

それに比べて、たとえば足立区で一戸建てを購入しようとすれば、土地は狭いですが、2,000万〜3,000万円で検討することができる。無理をして都心でマンションを買うのであれば、少々郊外に家を持とうとする流れが生まれると考えています。戸建ての時代ですね。

 

――それで2019年7月から住宅販売事業をスタートしたのですね?

 

そうです。経営体制が変わり、社名も変わるタイミングで、新しいことにも取り組もうと考えていたところでした。

 

東京オリンピック後に不動産価格は暴落する、などという声はあります。確かに、新築マンションの販売数が鈍化している、という報道もあるので、ネガティブな観測が広がることは仕方がありません。

 

しかし東京から不動産がなくなるのかというと、それは絶対にない。そして不動産が存在していれば、そこには必ず何かしらのニーズが生まれるはずです。

 

東京都心の不動産価格は高止まりしており、たとえ多少価格が下落しても、一般の人にはまだまだハードルが高すぎる。一方で、オリンピック後に建築費が下がれば、都心の周辺地域で戸建てを持つという選択肢が現実的になります。

 

いまは動向を探っているところです。実際にそのような流れになったときに準備を始めるのでは手遅れですから。

 

このようなことができるのも、以前も言いましたが、強みを持たないという方針だからこそです。会社の規模が大きかったり、主力事業へのこだわりが強すぎると、なかなかトライ・アンド・エラーの繰り返しはできません。

 

――最後にお聞きします。この仕事の醍醐味は何でしょうか?

 

私は長く金融機関に勤務し、主に債券の売買に携わってきました。昔は紙切れとはいえ実際に「モノ」が存在していましたが、今はすべてが電子化され、自分が扱っているものを見ることはできなくなりました。

 

たとえば100億円の債券を売っても100億円のお金を見ることはないし、もちろん債券そのものを見ることもありません。そのような状況下で、仕事として実感を得ることは、なかなか難しい。

 

しかし不動産は、まったく逆。1,000万円の物件だろうが、1億円、あるいは10億円の物件だろうが、見ることができます。不動産は絶対的に存在するものだから、仕事として実感が得られやすい。さらにそれを取り扱うことで「三方よし」も実現できる。これが、不動産業の最大の醍醐味だと考えています。

 

取材・文/関根昭彦 撮影(人物)/関根明生
※本インタビューは、2019年10月23日に収録したものです。