有名企業が騙された詐欺事件は、なぜ起きたのか?
どの業界にも悪い人間はいるもので、不動産業界であれば「地面師」と呼ばれる詐欺師が、たびたび事件を起こしている。記憶に新しいのが、地面師集団による東京・五反田の土地取引の詐欺事件だ。五反田駅から徒歩3分ほどのところにある古い旅館の約600坪の土地で、この所有者になりすました地面師集団が、大手不動産会社から55億5000万円をだまし取ったとされる事件である。
同様の事件は、ここ数年、警視庁管内だけでも数十件も起きているというから、不動産業界ではわりと身近な犯罪だ。
なぜこのような詐欺行為に気づかないのか、誰もが疑問に思うだろう。騙されてしまうポイントのひとつは、劇場型の犯罪だということだ。五反田の事件もそうだったが、元旅館女将のなりすまし役が取引現場で生まれの干支を間違えるというミスを犯している。にも関わらず騙されたのは、ここで取引を止めればライバル会社に取られてしまうとか、現場の責任になってしまうといった、会社員なら誰もが持ち合わせている「弱み」を巧みに利用されたことも大きいといえる。
大手企業すらも被害に遭っている詐欺事件だが、株式会社TWS Advisors代表取締役社長の小野耕司氏は「自分であれば騙されない」と言う。なぜ、そのような強気の発言ができるのだろうか。
トップインタビュー
仕事で築いた人脈が、新たな仕事を生むというサイクル
――不動産業界では、詐欺の話も少なくないですね?
この業界は取引額も大きいので、その分、悪いことを考える人も多いのです。だから私がこの仕事を始めたときに心がけたのは「利益を出すこと」ではなく、「トラブルに巻き込まれないこと」「事件・事故に気をつけること」でした。車の運転でもそうですが、120キロで走り続けるのは難しい。法定速度で安全に気をつけないと、いずれ、事故が起きてしまいます。
――ちょっと怪しいな、というような仕事の話もあるのではないですか?
少し前に五反田の地面師事件がありましたが、似たようなうまい話は、私たちのところにもたまにきます。そのようなときは真っ先にその土地なり建物に問題がないのかを調べますし、きちんと調査すれば、ほとんどのケースで真偽はすぐに判明します。
この事件では、本来の登記人ではない人が売主になりすましていました。しかし少し調べれば、有名な地面師の名前や前科のある人の名前が出てくるわけです。
先日も、都内のある一等地が売りに出ていましたが、登記を調べると、名うての地面師の名前が出てきた。だから、その案件は一切ノータッチです。こんなものにタッチしていたら、「三方よし」どころか、全員が不幸になりますよ。
でも、以前は問題があったけど、今は問題のない土地というのもあります。たとえば、少し前に話題になった都心の土地は、以前は地面師が動いていて、大手のデベロッパーが騙されています。
そのような曰く付きの土地なので、特に大手企業はどこも手を出したがらない。そこで私たちが色々と調べて、問題のないことが証明できると、そこからビジネスが始まるのです。
――そういう土地を狙っているのですか?
狙っているというよりは、私たちのような規模の小さな会社には、大手では扱いにくい情報も集まってくる、というのはあります。以前より仕事で付き合いのある人たちから、「少々難しい案件があるのだけど……」と頼られることがあるんですよ。
――ビジネスに役立つネットワーク作りのコツはあるのでしょうか?
何かコツみたいなものがあればいいのですが、それはありません。ただ仕事を築いた関係は大切にしています。仕事で信頼関係が構築できたら、この次も、となるでしょう。何か困ったことがあったら、頼りにしてくれるはずです。逆に、この人とはダメだと思われたら、もう二度とありません。
不動産業界の知り合いが特別多いわけではありません。ただ仕事を通して信頼を得ようと心がけています。そうすると、何かあったときに頼りにしてくれて、仕事に繋がることもあります。たとえば1人信用できる人がいれば、その人にも同じように信頼する人がいるわけですよね。そうやってネットワークは広がっていくのです。
本来、ビジネスとは信頼関係のうえで成立するものですが、昨今は、人を見ずに仕事を進める人が多いと感じます。不動産業界でよく起きる詐欺事件にしても、人をきちんと見ていれば防げたでしょうし、きちんとしたネットワークさえあれば、正確な情報も入手できたに違いありません。
仕事で人を見る。人を見ながら、しっかりとニーズに応えていく。そこで生まれた信頼関係をもとに、自然とネットワークが広がり、次の仕事に繋がっていく。不動産業界は、人との繋がり、人的ネットワークが特に大切な業界です。ネットワークを元にした正のスパイラルを構築できる者だけが、この業界で生き残っていけるのだと考えています。