空室リスクや家賃下落リスクが低いという利点も
「サービス付高齢者向け住宅(以下※サ高住)」とは、2011年の高齢者住まい法(高齢者の居住の安定確保に関する法律)の改正によって創設された高齢者向けの新しい賃貸住宅のことだ。
サ高住を運営するには、都道府県や政令都市、中核市などへの登録が必要である。単身または夫婦の高齢者が安心して居住・生活できるようにするため、バリアフリーを整えること、ケアの専門家(医師や看護師、介護福祉士など)が少なくとも日中は常駐すること(夜間は各部屋に設置された通報装置などを通じて状況を把握)、安否確認サービスと生活相談サービスをすべての入居者に提供すること、などが登録基準となっている。
各部屋(専用部分)の面積は原則25㎡以上だが、共用の居間、食堂、台所その他が十分な面積を有する場合は、18㎡以上でも登録が認められる。これらの基準を満たして登録を受けたサ高住は、補助金や、固定資産税の軽減、不動産取得税(家屋・土地)の控除・減額などの優遇措置が受けられる。つまり、一般の賃貸住宅経営に比べて収益面でのメリットが大きいのである。
しかもサ高住は、多くの場合、高齢者が “終の棲家(ついのすみか)”として入居するので、一般の賃貸住宅に比べて空室リスクや家賃下落リスクが低いという利点もある。
そうしたさまざまメリットに着目し、資産運用ポートフォリオの一部としてサ高住経営を始める個人投資家が増えているという。
「当社は『高齢者住まい法』が改正される2年前の2009年に高齢者住宅事業を開始し、これまでに14棟のサ高住を供給しています。土地取得費を含めた場合の平均利回りは年7.76%(8棟平均)、土地を活用された場合の平均利回りは年10.29%(6棟平均)、全物件の入居率は9割以上です」と語るのは、千葉県松戸市に本社を置き、県北西部および東京都内で事業を展開する太陽ハウスの岩橋淑行代表取締役社長である。
同社の物件を購入してサ高住経営を始めた投資家は、土地オーナーや会社経営者、医師などさまざま。岩橋氏は「薬局チェーンのオーナーやホテル経営者など、医療やホスピタリティに関連するビジネスに携わっている方も投資されています。単に収益力を求めるだけでなく、社会貢献意識をもって始められる方が多いようです」と語る。
通常のアパート・マンション経営よりも有効な選択肢に
そもそも国がサ高住の普及を目指しているのは、急激な高齢化とともに増え続ける高齢者の受け皿を増やすためだ。
公的な受け皿としては「特別養護老人ホーム」などがあるが、低価格で充実したサービスが受けられることから人気が非常に高く、なかなか入居できないのが現実である。
一方、民間の施設である「有料老人ホーム」は、特別養護老人ホームと同等以上に手厚いケアを提供し、ホテルなみの設備やサービスが整っているところもあるが、公的な施設に比べると、どうしても料金が割高になりやすい。
そこで国は、手ごろな家賃で入居できて、最低限のケアサービス(安否確認、生活相談)が受けられるサ高住を増やそうとしている。国土交通省は、サ高住を含む高齢者向け住宅を2025年までに146万戸供給(住生活基本計画)するという目標を掲げており、その実現のために補助金や税制優遇などを講じているのである。
「人口減少の進行とともに、一般のアパート・マンション経営はこの先どんどん厳しくなっていきますが、サ高住をはじめとする高齢者住宅の需要は、高齢人口の増加とともに高まっていきます。長期安定収益を目指すうえでも、サ高住経営は有効な選択肢のひとつだと言えます」(岩橋氏)
人口が減ってアパートやマンションを借りる人が少なくなれば、空室リスクが高まり、家賃も年を追うごとに下がっていくのは自明の理だ。ましてや、現在のように新築アパート・マンションが次々と供給されている状況では、入居希望者と供給物件の需給バランスが崩れ、収益面での悪化が進みやすい。
「サ高住の供給状況は2018年5月末時点で約23.1万戸(※図表参照)と、国の目標を大きく下回っています。制度開始以来、急速に供給が拡大しているとはいえ、まだまだ足りない状況が続いているのです。安定的なニーズが期待できることは間違いなく、入居者の実際の受け入れや運営さえしっかりと行えば、十分な収益力は維持できるはずです」(岩橋氏)
もちろん、今後供給が増えれば、これまでとは異なる競争環境になっていくだろう。サ高住経営に取り組むのであれば、早く始めたほうが、より大きな先行者利益が得られるはずだ。
[図表] サービス付き高齢者向け住宅の登録状況(H30.5末時点)