中小企業の資金繰りを円滑化する取り組みの一つとして、Tranzax株式会社の「POファイナンス」が注目を集めている。売掛債権として確定する前の“発注書”を電子記録債権化することで、その譲渡を通じて中小企業に資金供給を行う仕組みだ。すでに、中小企業庁の「中小企業等の業種の垣根を越えた企業間の電子データ連携に関する実証プロジェクト」に採用されており、各金融機関の協力のもと実証実験が行われている。そのプロジェクトの参加企業のひとつである足利銀行に、「POファイナンス」を含むFintechへの取り組み状況を伺う本企画。ご登場いただくのは、同行のダイレクト営業室・室長の鈴木勉氏と、Tranzax株式会社代表取締役社長の小倉隆志氏だ。第4回目は、足利銀行が積極的に推し進める「フィンテック」への取り組みなどについて伺った。

他と同じことをやっていたら生き残っていけない

――足利銀行はPOファイナンスのほかにも、フィンテックに積極的に取り組んでいると聞いています。

 

足利銀行 営業企画部 上席審議役
鈴木 勉 氏
足利銀行 ダイレクト営業室 室長 鈴木 勉 氏

鈴木 地方銀行単独でできることは極めて限られてしまうので、まずSBIインベストメントさんが運用されているフィンテックファンドのほうに10億円出資させて頂いています。これによって、ローンチ前のフィンテック企業のプレゼンを直接聞けるようになりました。

 

話を聞いてみたら、「栃木県の宇都宮大学と共同研究しています」といった、縁を感じるフィンテック系のベンチャーさんもありました。SBIさんはITの分野における知見に優れた会社ですので、同ファンドへの投資によって、情報収集力が各段に高まったと感じています。

 

小倉 金融庁がフィンテックに取り組むよう指導されているので、金融機関はどこもフィンテックファンドへの投資を増やしていますよね。けど、10億円は多い。さすがですね。

 

鈴木 確かにメガバンクは10億円以上投資をされているケースがありますが、当行の下は多くて5億円。大半は1億円の投資ですね。

 

小倉 足利銀行さんの気合いの入り方を感じます(笑)。

 

鈴木 昔から言われているように、銀行業界は護送船団方式で、どの銀行でもやっていることを同じようにやりがちです。ただ、当行は一度、国有化を経験している銀行。他の銀行さんと同じことをやっていたら生き残っていけないことを身に染みて感じているんです。

 

ですから、多少のこだわりを持ってフィンテックにも取り組んでいます。銀行名のついたスマホ向けのアプリをリリースして終わりでなく、お客さまのニーズに沿ったサービスの提供を目指した試行を繰り返し、実のあるフィンテックサービスを追及していきたいんです。

 

小倉 おっしゃりたいことはよくわかります。ITと金融の融合で便利になるのは当たり前のことです。「事務作業がラクになります」なんていうサービスを、仰々しくフィンテックと呼んでも意味はありません。やっぱり、売り上げが増えるようなサービスでないと。

 

鈴木 そうなんです。最も身近なところで言えば、電子マネーもフィンテックの1つでしょうが、銀行口座から現金を卸して電子マネーにチャージされたら、銀行に入ってくるのはATMの時間外手数料ぐらいのものです。これではビジネスとして成り立たない。お客様の利便性が高まると同時に、銀行の新たな収益機会を生むサービスでないと意味がないんです。

 

その点、TranzaxさんのPOファイナンスは中小企業の早期資金化ニーズに応えながら、電子化された債権の買い取りを通じて銀行は金利収入を得られるサービスです。お取引先の企業活動に関する情報の蓄積を通じて、スムーズな融資にも繋がるメリットがある。

 

日本ではモバイル決済のニーズは少ない!?

Tranzax代表取締役社長 小倉隆志氏
Tranzax代表取締役社長 小倉隆志氏

小倉 私は、フィンテックの課題って国によってまちまちだと思っています。日本はスマホを使ったモバイル決済の導入が遅れているなどとおっしゃる方もいますが、日本人はみんな銀行口座を持っていて、コンビニにあるATMで24時間お金をおろせます。さらに、複数枚のクレジットカードを持っているのが一般的。

 

なので、日本国内ではモバイル決済のニーズそのものが、それほどないのです。ビットコインに代表される仮想通貨の分散台帳技術を銀行間の送金システムに取り入れる研究も進められていますが、日本の全銀システムでは同じ銀行間であれば瞬時にお金を送金できます。他行間でも1時間あれば着金する。

 

こんな便利でセキュリティ面でも優れたシステムを構築しているのは日本だけです。誰も不満を感じていない分野の研究がそんなに必要なのか? と感じざるをえません。

 

――足利銀行はRippleの分散台帳技術の活用を目指した銀行のコンソーシアムに参加されていますね。

 

鈴木 小倉社長のおっしゃるとおりではあるのですが(笑)、当行としてはフィンテックの取り組みの1つとして位置付けてコンソーシアムに参加させてもらっています。現状で不満がないとしても、よりよいサービスへと昇華できるのであれば大いに研究する価値はあると考えています。具体的には、分散台帳技術を応用することで送金コストを大幅に引き下げられる余地がある。この点は、お客様にとっても銀行にとってもメリットがあるでしょう。

 

取材・文/田茂井治 撮影/佐山順丸 ※本インタビューは、2017年9月20日に収録したものです。