下請法等の改正により、企業を取り巻くファイナンスの環境が激変している。親事業者、そして下請事業者は今、どのような対応を求められているのか? Tranzaxの小倉隆志社長にお話を伺った。 連載第5回目は「手形取引のデメリットを解消する電子記録債権の概要」である。

手形法とは異なる法律で定められた「債権」の扱い

――手形の使用は、振出人が支払いを先延ばしにできるというメリット以上に、受取人のデメリットが大きいように感じます。

 

小倉 ただ、前回述べたように、中小企業の借り入れ金利は割高に設定されているので、やはりコストは手形のほうが安いのです。その点で、一律に「手形が悪い」というのは早計です。実は、手形のデメリットの大半を解消する方法もあります。それは、「電子記録債権」です。電子記録債権ならば、印紙を貼らなくていいうえに、判子もいらない。金庫で管理する必要もないし、紛失リスクもない。当然、印刷機もいらない。

 

 

一般的に電子記録債権の場合、金額に関わらず1債権記録につき、数百円の手数料しかかかりません。1億円でも、10億円でも、発生のコストは一緒なのです。さらに、銀行に持ち込まずとも、期日には自動的に決済されるので、専門の管理者を置いたりする必要もありません。受け取る側からすると、手形と異なり、期日には即日決済されて現金が振り込まれるので、前述のような時間のロスもない。

 

また、“電子記録”なので、その額面の金額を細かく分割することも可能。1億円の手形だと、5,000万円の支払いに回すことができませんが、1億円の電子記録債権ならば2つの5,000万円の債権に分割して、譲渡することも可能なのです。期日前に資金が必要になった場合は、手形と同様、持ち込んだ人のクレジットに応じて割引率が発生してしまいますが、それ以外のデメリットはほぼすべて解消できると言っていいでしょう。

 

――それは、“電子手形”ということでしょうか?

 

小倉 意味合いとしては、一緒と考えていいでしょう。というのも、手形は手形法に基づいて取り引きされるものであり、手形という「紙」が必須なのです。一方で、電子記録債権は手形法とは異なり、2008年に施行した電子記録債権法という新しい法律に基づいて、生まれた金融債権。手形法とは異なる法律で定められた債権のため、厳密には「電子手形」と呼称することができないのです。

「電子記録債権」を振り出す際に必要な手続きとは?

――手形と比較して、随分と都合のいい決済システムのようですが、どんな企業でも利用することが可能なのですか?

 

Tranzax代表取締役社長 小倉隆志氏
Tranzax代表取締役社長 小倉隆志氏

小倉 手形を振り出す場合は、取引銀行に当座預金口座がなくてはなりませんが、電子記録債権を発生させる場合は取引銀行に普通口座があれば問題ありません。それに加え、電子債権記録機関の指定を受けている機関を通じて、利用者登録をする必要があります。電子債権記録機関には現在、三菱東京UFJ銀行系の日本電子債権機構(株)、三井住友銀行系のSMBC電子債権記録(株)、みずほ銀行系のみずほ電子債権記録(株)、全国銀行協会傘下の(株)全銀電子債権ネットワーク、そして当社Tranzaxグループの(株)Densaiサービスと、5つの機関があります。

 

――そこで、利用者登録と審査を終えれば、すぐに電子記録債権を発生させられるわけですね。

 

小倉 厳密に言うと、受取人も同様に、電子債権記録機関の利用者登録が必要になります。といっても、電子記録債権を受領するための利用者登録ですので、銀行で普通口座を開設するときと同じように、登記簿謄本や印鑑証明を用意して申し込めば、長く時間をかけずに登録できます。

 

取材・文/田茂井治 撮影/永井浩 
※本インタビューは、2017年3月1日に収録したものです。