長年の勤続で手にした退職金が、予期せぬ形で失われるトラブルが後を絶ちません。老後への良かれと思った備えが、なぜ取り返しのつかない落とし穴へとつながってしまったのでしょうか。急増するSNS投資詐欺の巧妙な手口と、多くの家庭が陥りがちな「夫婦間のお金のリスク」をひもとき、大切な老後資金を守る方法を考えます。
ふざけるな! 退職金2,000万円の60歳定年夫、怒号と絶望。青ざめる58歳専業主婦妻。老後資金500万円消失、きっかけは「妻の投資デビュー」 ※写真はイメージです/PIXTA

「利益が出ていると思っていた」妻が信じ込んだSNS投資の落とし穴

由美子さんが最初に振り込んだ金額は50万円でした。案内された専用アプリには、投資した資金が増えていく様子が表示されていました。運営側からも「順調に利益が出ています」「今なら追加投資でさらに利益を狙えます」といったメッセージが届きます。

 

最初は半信半疑だったものの、画面上の残高が増えていくのを見て、由美子さんは次第に相手を信用するようになりました。

 

その後、「特別な投資枠がある」と勧められ、200万円、100万円と追加で送金。さらに、利益を引き出そうとしたところ、「出金には税金や保証金の支払いが必要」と説明されました。由美子さんは、すでに大きな利益が出ていると信じていたため、出金するためなら仕方がないと考え、追加の送金にも応じてしまいました。

 

しかし、何度か振り込んでも出金はできません。相手に問い合わせても明確な説明はなく、やがて連絡が取れなくなりました。結果として、由美子さんが振り込んだ金額は約500万円。退職金のうち約1,500万円は残っていたものの、老後資金の一部を失うことになったのです。

 

警察庁によると、2025年のSNS型投資詐欺の認知件数は9,523件、被害総額は1,288億円に達し、深刻な社会問題となっています。

 

「まさか自分がこんな話に引っかかるとは思わなかった。最初は本当に少額のつもりだったんです。画面では利益が出ていたし、今振り返ると、もっと早くおかしいと気づくべきでした」

 

由美子さんはそう振り返ります。一方、哲也さんは退職金の管理についても考え直したといいます。

 

「これまでは家計のことを妻に任せきりでした。でも、老後のお金は夫婦2人の生活を支えるものですから、私もきちんと把握しておく必要があると思いました」

 

金融経済教育推進機構『家計の金融行動に関する世論調査2025年(二人以上世帯)』によると、お金に関する相談を「したことがない」人は64.6%。また、「老後の資金計画を立てていない」という人も59.9%にのぼります。老後資金を守るためには、家計を一人に任せきりにせず、夫婦で資産状況やリスクを日常的に共有し、独断で判断しないことが大切です。