(※写真はイメージです/PIXTA)
「もう、誰かのケアをしたくない」妻の言葉を理解できない夫
香典袋の一件から数週間後、マキコさんは離婚を切り出しました。大きな借金や浮気があったわけではなく、夫婦げんかもそれほど多くありません。タカノリさんは、これまで平穏に暮らしてきたつもりでした。
「何が不満なんだ。これからは仕事も辞めて、二人でゆっくりできるじゃないか」
すると、妻は静かに答えました。
「だから、もう嫌なの。これからは誰かのケアをする人生を送りたくない」
タカノリさんには、その意味が理解できませんでした。
「ケアって、介護のことですよね? 私はまだ元気ですし、介護してもらうつもりなんてありません」
マキコさんが言う「ケア」は、介護だけを指しているわけではありません。夫の体調を気にかけ、予定を管理し、必要なものを準備する。夫が不機嫌になれば理由を考え、話しかけるタイミングを探す。そうした日常の細かな世話や気遣いを、長年一方的に担ってきたことに疲れたのだといいます。
タカノリさんは、夫婦ならお互いに支え合うのが当然だと考えています。自分も家族のために懸命に働いてきたのに、なぜ今になって離婚を求められるのか、納得できませんでした。
貯蓄4,500万円。離婚すれば老後の生活はどうなる?
タカノリさん夫妻の金融資産は約4,500万円。住宅ローンも完済しています。65歳からの年金受給見込額は、タカノリさんが月約20万円、マキコさんが月約16万円。夫婦合わせて月36万円になる見込みです。
しかし、離婚すれば財産分与や住まいの問題が生じます。婚姻期間中に夫婦で形成した財産は、名義だけでなく形成への貢献なども踏まえて財産分与の対象となり、自宅の扱いも考える必要があります。また、夫婦ともに厚生年金に加入してきたため、離婚時の年金分割についても確認が必要です。
タカノリさんは、離婚によって夫婦ともに経済的な余裕が失われることを心配しています。しかし、マキコさんの考えは違いました。収入が減り、一人暮らしになれば生活費がかさむことも理解しています。それでも、自分の生活を自分で決められる老後を送りたいと考えているのです。
退職後には夫婦で温泉旅行に出かけるつもりでしたが、具体的な計画は進んでいません。これまでと同じように、マキコさんが宿泊先の予約などを手配してくれるものと思っていたからです。
「旅行に行こうって言うのはいつもあなた。でも、行き先を調べて、宿を予約して、交通手段を手配するのは全部私じゃない。定年後もずっとそうなんでしょ。もう、やってられないわよ」
そう言われても、タカノリさんには、妻がそこまで不満を募らせていた理由がわかりませんでした。一方、マキコさんは別居を視野に入れ、住まいや家計の整理を始めています。
「香典袋くらい、これからは自分で用意しますよ。家事だって、もっとやるつもりです。それでも離婚しなきゃいけないんでしょうか」
厚生労働省の「2025年人口動態統計月報年計(概数)」によると、同居期間20年以上の夫婦の離婚件数は3万9,886組に上ります。このうち同居期間30年以上の離婚は1万3,126組で、前年の1万2,883組から増加しました。
長年連れ添った夫婦であっても、離婚は決して珍しいことではありません。定年退職を機に夫婦で過ごす時間が増えるからこそ、これまでの家事分担やお互いへの気遣いについて、改めて考えてみる必要があるのかもしれません。
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