高額な割増退職金を機に、早期退職へ踏み切る中高年会社員は少なくありません。長年の実績や管理職の経験があれば、次の道も容易に開けると期待しがちです。しかし、転職市場で突きつけられる現実は想像以上にシビアかもしれません。退職後に初めて直面する市場価値のリアルと、決断前に押さえておくべきポイントを考えます。※本記事に掲載している事例は、プライバシー保護および情報の一般化のため、実際の相談事例をベースに一部の数値や設定を変更・再構成したモデルケースです。
「率直に申し上げて、紹介できる仕事はありません」割増込み退職金3,000万円につられて早期退職した54歳元課長…再就職の面談で突きつけられた現実 ※写真はイメージです/PIXTA

年収950万円から360万円へ…早期退職から半年後に受け入れた仕事

退職から半年が経過しても、佐藤さんの再就職先は決まりませんでした。

 

当初は年収800万円を希望していましたが、600万円、450万円と徐々に条件を引き下げます。それでも、希望する総務・管理部門の管理職求人は限られていました。

 

一方、家計にも不安が出始めます。退職金の一部は住宅ローンの繰り上げ返済に充てていました。さらに、退職翌年には前年の給与所得を基にした住民税の支払いもあります。再就職が決まらないまま、生活費や税金の支出が続いていました。

 

そんなとき、ようやく採用の話が進んだのが、従業員30人ほどの金属加工会社でした。提示された仕事は、総務課長ではありません。倉庫での資材管理や伝票整理などを担当する一般職でした。提示された年収は360万円。前職の950万円から590万円も下がる条件です。

 

「まさか、ここまで下がるとは思いませんでした。前の会社では部下を管理する立場だったのに、今度は自分が現場の仕事を一から覚えなければなりません」

 

佐藤さんは、提示された雇用条件を何度も確認したといいます。それでも、これ以上の転職活動を続けることへの不安があり、最終的にはその条件を受け入れることにしました。

 

総務省『労働力調査』によると、2025年の転職者数は330万人だった一方、転職等希望者数は1,023万人に上りました。転職を希望する人の数に対し、実際に転職した人の数は限られています。ただし、両者は集計対象や定義が異なるため、単純な比較はできません。

 

佐藤さんは振り返ります。

 

「退職を決める前に、外部のエージェントへ相談して市場価値を確かめておくべきでした。普段から自分の客観的な立ち位置を把握していれば、そもそも早期退職に応募しなかったと思います」

 

早期退職制度では、割増退職金の金額が大きな判断材料になります。しかし、退職金の上乗せ額に目を奪われ、再就職の見通しを十分に確認しないまま会社を辞めれば、想定していなかった収入減に直面する可能性もあるのです。