責任ある立場で高年収を得ていても、自由に使えるお金が増えるとは限りません。教育費や住宅ローン、老後資金の重圧から、自分の小遣いや希望が後回しになり、やり場のない不満を抱える会社員は少なくありません。家族のために働き続けてきたはずの家計で何が起きているのか。高年収世帯が陥りがちな家計の落とし穴を考えます
「ふざけるな! 小遣い月2万円で足りるわけないだろ」…〈年収1,000万円・54歳会社員〉が不満爆発、妻の家計簿を開いて知った「切ない現実」 ※写真はイメージです/PIXTA

50代の家計は支出が膨らみやすい…小遣いだけを削ればいいのか

伊藤さんが納得できないのは、家計の全体像を知らされていなかったことでした。

 

住宅ローンの残高や預貯金の総額、毎月の貯蓄額について、妻に尋ねても、具体的な数字をすぐに答えてもらえません。家計管理は妻に任せきりだったため、自分の給与がどこに使われているのか、十分に把握できていなかったのです。

 

「家族のために働いているのに、家計のことは何も知らない。これでは、自分がいくら稼いでも虚しいだけです」

 

後日、伊藤さんは妻に家計簿を見せてもらうことにしました。妻が見せてくれた家計簿には、住宅ローンや食費、光熱費、通信費、子どもの教育費、積立貯金などが細かく記されていました。毎月の支出を合計すると、約52万円。手取り収入56万円から差し引くと、残るのはわずか4万円。それらはすべて、老後を見据えての貯蓄に回っていました。

 

伊藤さんが驚いたのは、妻自身も自由に使えるお金をほとんど確保していなかったことでした。パート収入の約8万円も家計に入れ、食料品や日用品の買い出し、子どもの学校関係の支払いなどをやりくりしています。自分の洋服や美容院代も、必要最低限に抑えていたといいます。

 

「妻が好き勝手に使っているわけではないことは分かりました。むしろ、自分より我慢していたのかもしれません……」

 

妻の献身に気づく一方で、伊藤さんには別の思いもありました。

 

自分は家族のために稼いでいるのだから家計は妻に任せておけばいいと、実質的に無関心を決め込んでいたのは自分自身だったのではないか――そう省みたのです。

 

「家族のために稼いできたという気持ちはあります。でも、家計のことを妻任せにしていたのも事実です。小遣いを増やしてほしいと不満を言う前に、もっと一緒に考えるべきでした」

 

その後、伊藤さんは妻と毎月の家計について話し合うようになりました。教育費がかかる時期であるものの、“今”も大切にしようという結論に至ったといいます。

 

「子どもたちが最優先。自分たちの老後も優先したい。だからといって、過度な我慢は不満がたまるだけ。少しはガス抜きが必要と考えました」

 

外食をしたり、欲しかったものを買ったり――年に1、2回、夫婦で少し贅沢をする。そのためなら、月2万円の小遣いでも頑張ることができるといいます。

 

金融経済教育推進機構の「家計の金融行動に関する世論調査(2025年・二人以上世帯)」によると、50代世帯の84.0%が老後生活に不安を感じており、年金支給時に必要な資金として平均2,459万円を挙げています。

 

教育費や住宅ローンで支出が膨らむ50代ですが、過度な我慢は長続きしません。夫婦で家計状況を明確に共有し、現在の潤いと将来への備えのバランスを考えたマネープランを立てることが重要です。