(※写真はイメージです/PIXTA)
頭ではわかっていても…
「『母の本心ではない』『病気のせい』と、頭では理解しているつもりなんです。でも、人格を否定されるような暴言を吐かれると、なんのために頑張っているのかわからなくなってしまって……」
都内で暮らす智子さん(54歳)は、実家で一人暮らしをする母・郁恵さん(85歳)の介護と生活支援を続けています。かかりつけ医からは初期の認知症と診断されており、智子さんは仕事を調整しながら定期的に母のもとへ通う生活です。
銀行の機械操作や、そもそものお金の管理が難しくなった母のため、智子さんは2ヵ月に1回の年金支給日に代わりにお金をおろしに行っています。引き出した現金を銀行の封筒に入れたまま母の手元へ渡し、その場で母の分の生活費と余剰費にわけたあと、残ったお金は母自身が家で保管するルールにしていました。
ところが、その翌日になると母の態度は一変します。電話口で突然、「お前が私の年金を全部持っていったんだろう!」と智子さんを泥棒扱いするように問い詰めてくるのです。
以前、母が電話でひどい言葉を言い放ったことが原因で疎遠になってしまった知人の件についても、母の記憶の中では「智子がトラブルを起こしたせいで、あの人と連絡が取れなくなった」と書き換わっていました。自分が相手にいったこと自体、すっぽりと記憶から抜け落ちてしまっているようでした。
それでも智子さんは、母に少しでも豊かな時間を過ごしてほしいと気を配り続けています。週末には母が好きなお菓子を買っていって一緒にお茶を飲み、ボーナスが出た際には出前でお寿司を取ったり、母が昔から贔屓にしているレストランへ連れ出したりと、できる限りの親孝行を重ねてきました。
そうした時間を過ごしているとき、母はとても満たされた表情でニコニコと喜び、「私にはこんなに優しい娘がいてくれて本当に幸せだねぇ」と嬉しそうに呟いていました。
しかし、なにかの拍子に突然スイッチが入ったように母の顔つきが険しくなり、冷酷な言葉が智子さんに浴びせられます。
「あんたは昔から底意地が悪い!」「私ばっかり我慢している!」
さっきまで笑顔で感謝してくれていた母は突然豹変。智子さんは言葉を失い、深い悲しみとやり切れなさに包まれます。
「喜んでくれた笑顔も本当のはずなのに、一瞬で裏切られたような感覚になります。親孝行をしたいという思いと、もう関わりたくないという疲れが入り混じって、どう気持ちを整理すればいいのかわかりません」
優しさと暴言のあいだで揺れ動く母の姿に、智子さんの心は限界近くまで追い込まれています。