長年培った実績や高いスキルがあっても、定年後の再就職市場で同じように評価されるとは限りません。社外へと活躍の場を求めようとしたとき、現役時代の自負と労働市場の現実とのギャップに直面するシニアは少なくないのが実情です。ある元部長の就職活動をきっかけに、定年後の働き方選びで直面する落とし穴を紐解きます。
「こんなはずじゃなかった…」退職金2,400万円・60歳元部長の誤算…再雇用を断り100社全滅、辿り着いた「月給11万円」 ※写真はイメージです/PIXTA

100社に応募しても採用されず…半年後に選んだ月給11万円の仕事

松本さんは、転職エージェント経由の求人やハローワークで見つけた求人などに応募しました。管理職・営業職を中心に100社ほどエントリーしたものの、書類選考を通過したのは3社だけ。面接に進んだものの、結果は不採用でした。

 

「これまでの実績を説明しても、暖簾に腕押しという感じでした。私のキャリアは、今の世の中では求められていないようです」

 

求人票の「年齢不問」についても、松本さんは当初、年齢に関わらず幅広い仕事に応募できるという意味で受け止めていました。実際、労働施策総合推進法では、募集・採用時に年齢を理由として応募を制限することは原則禁止されています。ただし、年齢不問であっても、職務に必要な経験や技能などの条件が設けられていることはあります。応募できることと、採用される可能性があることは同じではないのです。

 

仕事探しを始めて半年が過ぎるころ、松本さんは知人から事務補助の仕事を紹介されました。週3日勤務で、月収は約11万円。現役時代から比べると、収入は大きく減ります。それでも求められていることに納得感を覚えました。就職活動に疲れていた時期でもありました。

 

厚生労働省の調査によると、70歳までの就業機会を確保する措置を実施している企業は34.8%。65歳までの雇用確保措置とは異なり、70歳までの就業機会の確保は企業の努力義務です。高齢者が働き続けられる環境づくりは進められていますが、希望する職種や給与、勤務条件に合う仕事が誰にでも見つかるわけではありません。

 

「年を取っても働ける世の中ではありますが、周りから求められて働ける人はわずかなんだなと、実感しました。あのとき、再雇用を断っていなかったら……」

 

内閣府『令和6年度 高齢社会対策総合調査(高齢者の経済生活に関する調査)』によると、50代当時の働く様子として「会社や同僚から高く評価されていた」と回答した高齢者は36.2%、「経験を積んだ仕事で力を発揮していた」は35.5%に上ります。また、高齢期に仕事を決めた理由として「自分の経験やスキルが生かせる」が41.5%(男性46.4%)で最多を占める一方、不就労の理由には「年齢制限」(11.3%)や「職種(6.3%)・勤務条件(4.4%)の不一致」が挙がっています。

 

現役時代の高い自負やキャリアと、定年後の再就職市場で求められる現実との乖離は、多くのシニア層が直面する共通の課題といえそうです。