内閣府「令和6年度 高齢者の経済生活に関する調査」によると、収入を伴う仕事をしている人のうち、働く主な理由として「収入のため」を挙げた人は55.1%でした。一方、「働くのは体によいから、老化を防ぐから」は20.1%、「自分の知識・能力を生かせるから」は12.4%と、経済的な理由以外で働く人もいます。大手食品メーカーを退職した68歳の男性は、十分な年金と貯蓄がありながら、熟年離婚も重なって張り合いのない毎日を送っていました。そんな男性の生活を変えたのは、時給1,400円の単発アルバイトでした。※本記事に掲載している事例は、プライバシー保護および情報の一般化のため、実際の相談事例をベースに一部の数値や設定を変更・再構成したものです。
人生のピークは過ぎたと思っていました…〈年金月23万円〉熟年離婚で意気消沈していた68歳男性。〈時給1,400円〉のバイトで「羽田の男」として復活したワケ (※写真はイメージです/PIXTA)

「年金月23万円・貯蓄4,000万円」68歳男性の退職後

東京都内で一人暮らしをするマサシさん(68歳・仮名)は、大手食品メーカーに長年勤めてきた元会社員です。営業や商品企画などを経験し、管理職も務めました。60歳で定年を迎えた後も再雇用で働き、65歳で退職しました。

 

現在は月23万円ほどの年金を受給しており、金融資産も約4,000万円あります。住宅ローンを完済したマンションに住んでいるため、経済的な不安はほとんどありません。退職後も以前の勤務先の縁で、関連企業の仕事を週2日ほど手伝っています。報酬は月10万円ほど。年金と合わせれば月33万円の収入があります。

 

「ありがたい話なんですが、仕事といっても若い人の相談に乗ったり、資料に目を通したりするくらい。現役時代のような緊張感はありません。かといって、いまさら自分が前に出るわけにもいきませんからね」

 

実は、マサシさんは退職前に熟年離婚も経験しています。子どもたちはすでに独立しており、元妻とは別々の生活を送っています。

 

「離婚については、お互いに思うところがあったのでしょう。ただ、会社も辞めて、家族もいなくなって、急に一人になった感じはありましたね」

 

現役時代は出張も多く、休日はゴルフや取引先との付き合いで予定が埋まっていました。しかし、退職後は人と会う機会がめっきり減りました。

 

「お金には困っていないんです。でも、朝起きて今日は何をしようかと考えるのが、だんだん面倒になってきましてね。テレビをつけて、気づいたら夕方になっている。そんな日もありました。人生のピークは過ぎた。あとはもう余生を過ごすだけだと思っていたんです」

時給1,400円の倉庫バイトに応募

そんなマサシさんが興味を持ったのが、スマートフォンで見つけた単発アルバイトでした。募集されていたのは、羽田空港に近い物流倉庫での商品のピッキングと梱包作業。時給は1,400円で、未経験者でも応募できるというものでした。

 

「最初は、こんな仕事もあるんだな、という程度でした。でも、身体を動かせるし、1日だけなら試してみてもいいかなと思ったんです」

 

食品メーカー時代には物流部門と関わる機会もありましたが、実際に倉庫で作業するのは初めてでした。指定された商品を棚から集めるピッキングや、商品を段ボールに詰める梱包作業を担当しました。

 

「最初は大変でしたよ。商品がどこにあるのかわからないし、似たような箱も多い。商品のコードを読むのも一苦労でした。若い人たちはテキパキ動いていて、すごいなと思いました」

 

仕事を終えるころには足が棒のようになり、帰宅するとぐったり。それでも、不思議な充実感があったといいます。

 

「一日中動き回って、汗をかいて。帰ってから飲んだビールが、びっくりするほどうまかったんですよ」

 

それ以来、予定のない日に同じ倉庫の募集が出ていると、応募するようになりました。

「昭和が出てますよ!(笑)」若手スタッフからの一言

何度か通ううちに、マサシさんは仕事にも慣れてきました。商品の配置を覚え、効率よく作業を進めるコツもつかみました。

 

「私は昭和の会社員ですから、つい周りに声をかけちゃうんですよ。『こっちを先にやったほうが早いぞ』とか『そこは二人でやったほうがいい』とか。あとから、余計なことを言ったかなと思うんですけどね」

 

ある日、いつもの調子で作業の進め方について口を出したところ、若い男性スタッフから笑いながら言われました。

 

「マサシさん、昭和が出てますよ!(笑)」

 

マサシさんも思わず笑ってしまったそうです。

 

「昔だったら、年上の人間が言えば周りが従ってくれたかもしれません。でも、ここでは私はただのアルバイトですから。気をつけないといけませんね」

 

もちろん、現場には現場のルールがあり、指示を出すのは責任者の仕事です。マサシさんもその点は意識しています。一方、忙しいときには周囲の状況を見ながら率先して動き、手が足りないところを手伝うこともあります。スピードが求められる現場では、段取りを考えて動くマサシさんの存在が重宝され、社員や若手のスタッフからも慕われるようになりました。