高齢期の住み替え先として、郊外の一戸建てから利便性の高い集合住宅を選ぶ動きが広がっています。終の棲家には老人ホームや平屋が選ばれがちですが、都市部のタワーマンションという選択肢に注目するシニア世帯も少なくありません。世間の先入観とは異なる、高齢期における住まいの新たな合理性と実態を詳しく検証します。※本記事に掲載している事例は、プライバシー保護および情報の一般化のため、実際の相談事例をベースに一部の数値や設定を変更・再構成したモデルケースです。
「年寄りが見栄を張るな!」〈年金月29万円・貯金4,000万円〉70代夫婦、郊外の庭付き一軒家を手放し「駅前タワマン」へ。親族一同が呆れた決断の「3年後」 ※写真はイメージです/PIXTA

周囲が呆れた「70代のタワマン移住」という決断

「年寄りが見栄を張ってどうするんだ」

 

長男からそう言われたとき、加藤博さん(74歳・仮名)は苦笑いするしかありませんでした。加藤さんは定年まで中堅専門商社に勤務。妻の洋子さん(71歳・仮名)と2人暮らしで、年金収入は夫婦合わせて月29万円です。手元には退職金を含めた4,000万円の貯蓄がありました。

 

夫婦が暮らしていたのは、郊外のベッドタウンにある築38年の木造2階建てです。50坪の敷地に立つ庭付きの住まいは、子育て期には快適でした。しかし、子どもが独立して夫婦2人になると、持て余す空間が増えていきました。階段の上り下りや庭の草むしりは年々身体に重く、冬場の底冷えも厳しさを増します。最寄りの駅まではバスで15分。日々の買い物や病院への移動には自家用車が欠かせませんでした。

 

「妻が膝を悪くし、私自身も運転に不安を覚えるようになりました。外壁の塗り替えや屋根の補修で、10年ごとに数百万円単位の出費も続きます。家を売って駅前のタワーマンションに移ろうと切り出したとき、親族一同から猛反対を受けました。『管理費で破綻する』『老い先短いのにタワマンなんて身分不相応だ』と散々な言われようでした」と加藤さんは当時の孤立感を振り返ります。

 

国土交通省『令和5年住宅・土地統計調査』によると、65歳以上の高齢者がいる世帯の持ち家率は約8割にのぼります。そのうち7割以上が一戸建てです。

 

一方で、同省『住生活総合調査』では、高齢期における戸建て住宅の課題として「住宅の老朽化に伴う維持管理の負担」「家庭内事故につながる階段などの段差」「断熱性の低さによる冬場の寒暖差」を挙げる世帯が半数を超えています。

 

郊外の一戸建てに住み続けることは、日常の移動や家事の負担だけでなく、健康維持の観点からも大きなリスクを抱えやすい実態が示されています。