子どもの住宅取得に資金を援助することは、親にとって大きな喜びのひとつかもしれません。しかし、多額の金銭支援がきっかけとなり、親子関係に修復不能な亀裂が生じるケースもあります。良かれと思った支援がなぜ絶縁劇を招いてしまうのか。資金援助に伴う心理的な落とし穴と、親子の適切な距離感について深く考えます。※本記事に掲載している事例は、プライバシー保護および情報の一般化のため、実際の相談事例をベースに一部の数値や設定を変更・再構成したモデルケースです。
「もう二度と関わらないでくれ!」〈年金月32万円・貯金4,500万円〉70代夫婦、息子の新居に「1,000万円の資金援助」…半年後、父に届いた〈絶縁LINE〉のワケ ※写真はイメージです/PIXTA

息子のマイホームに1,000万円援助…「親心」から始まった誤算

都内に暮らす田中茂さん(73歳・仮名)は、妻の恵子さん(70歳・仮名)と2人暮らしです。大手メーカーを定年退職し、現在は月32万円の年金を受給しています。現役時代の貯蓄と退職金を合わせた資産は4,500万円ほど。

 

転機は2年前でした。一人息子の田中大輔さん(42歳・仮名)が、郊外に念願の一戸建てを建てることになったのです。大輔さんは妻の愛さん(39歳・仮名)と小学生の長男の3人暮らし。頭金の工面に苦慮する姿を見て、茂さんは援助を申し出ました。

 

「困っているなら遠慮するな。1,000万円を用立てよう」

 

贈与税の非課税特例を利用し、税務申告も適切に完了させました。息子夫婦からも深く感謝され、茂さんは親としての役割を果たせた満足感を抱いていました。

 

国土交通省『令和6年度 住宅市場動向調査報告書』によると、土地を購入して注文住宅を新築した世帯において、自己資金の内訳に占める「贈与(住宅取得贈与の対象になるもの)」の割合は20.2%。また注文住宅の建築資金で資金贈与を行った親の平均年齢は71.4歳となっており、高齢の親世代から子世代への資産移転という側面も強くうかがえます。

 

しかし、高額な資金提供は、時に親子の健全な距離感を狂わせる要因となります。新居が完成してから、茂さんの行動は一変しました。「1,000万円を出してやった」という自負から、車で30分の新居へ頻繁に訪れるようになったのです。ときには合鍵で勝手に家に入ってくることも。

 

週に何度もインターホンを鳴らし、勝手に庭に入って植木を剪定し、リビングに上がっては「家具の配置がおかしい」「掃除が行き届いていない」と悪気なく口を挟みました。「近くまで来たから」「野菜を届けに来た」と平日昼間に突然現れる義父の存在は、在宅ワークや家事に追われる愛さんにとって次第に耐え難い重圧となっていったそうです。