高齢の夫婦が互いに支え合いながら暮らす「超老老介護」。介護する側も高齢であるため、自宅での生活を続けるには住環境の整備も重要になります。しかし、多額の費用をかけて家を改修することが、ベストな選択だったとはいえないケースも。ある男性の事例から、老後資金と住宅改修、在宅介護の難しさを考えます。※本記事に掲載している事例は、プライバシー保護および情報の一般化のため、実際の相談事例をベースに一部の数値や設定を変更・再構成したモデルケースです。
超老老介護の現実…79歳夫「認知症の妻のために」と650万円で自宅をバリアフリー改修も「こんなはずじゃなかった」と後悔したワケ ※写真はイメージです/PIXTA

650万円をかけても在宅介護を続けられず…施設入居で直面した現実

幸子さんの症状はその後も進み、博さん1人で介護を続けることは難しくなっていきました。

 

夜間に何度も起きて家の中を歩き回る。声をかけても、夫が誰なのかわからなくなることがある。博さんは十分に眠れなくなり、日中も疲れが抜けない状態になりました。

 

自分の体調まで崩してしまえば、2人での生活そのものが成り立たなくなる。そう考え、ケアマネジャーにも相談した結果、幸子さんの施設入居を検討することになりました。

 

「家を直せば、ずっと自宅で介護できると思っていました。でも、私の体力にも限界があります。妻のことは大切ですが、私1人ではもう支えきれませんでした」

 

最終的に、幸子さんは介護施設に入居しました。博さんは自宅に1人で暮らすことになります。

 

そこでふと思うのは、650万円かけた住宅改修のこと。段差をなくし、浴室やトイレを使いやすくする工事は、在宅生活を続けるために必要なものだったはずです。しかし、施設入居後は、改修した自宅で妻と暮らすという当初の目的を果たせなくなりました。

 

もちろん、工事費用のすべてが無駄になったわけではありません。博さん自身が暮らすうえで便利になった部分もあります。

 

要支援・要介護認定を受けた人を対象に、手すりの取り付けや段差の解消、滑りにくい床材への変更、引き戸への交換、洋式便器への取り替えなどは、介護保険の給付対象となります。支給限度基準額は原則20万円で、所得に応じて対象工事費の7~9割が支給されます。対象となる工事には条件があり、原則として着工前の申請が必要です。

 

「妻のためにできることは何でもしたかったんです。でも、あれだけのお金をかけましたが、もっと他にできることはあったんじゃないかと思うんです」

 

厚生労働省『2025(令和7)年国民生活基礎調査』によると、要介護者と同居する主な介護者の双方とも65歳以上同士は61.9%、75歳以上である「超老老介護」の割合は37.1%に達しています。

 

さらに内閣府『令和5年度高齢社会対策総合調査』によると、身体機能低下時に「手すり設置」(69.1%)や「段差解消」(42.5%)が必要とされる一方、虚弱化時に施設入居を望む人も21.0%を占めます。

 

老後、住まいに求めるものは1つではありません。資金計画や症状変化を見据え、都度、総合的な判断が求められます。