(※写真はイメージです/PIXTA)
念願のFIREを達成したが…
「すべてを失ってから気づきました」
首都圏にあるマンションで一人、力なくそう語るのはナオキさん(現在50歳)。かつては都内の中堅企業の役員として年収約850万円を得ており、共働きの妻と高校生と中学生の娘2人を養うごく普通の会社員でした。
しかし、社内の人間関係や業務のプレッシャー、毎朝の満員電車に長年ストレスを感じていたナオキさんは、20代のころから「早く金を貯めて会社を辞める」と、株式投資に没頭。NISAが始まって以降も非課税枠をフル活用しながら、毎月の小遣いを切り詰めて投資へ回し続けました。
そして50歳を迎えた際、ついに保有資産の合計評価額が1億円の大台を突破。口座に刻まれた「100,000,000円」の数字を見ると、胸が高鳴り、目が輝きます。「これで一生分の金は確保できた」とナオキさんは、悲願だった早期退職を決意しました。
突然の決断に、妻は当惑を隠せません。妻は自らも外で働いており仕事にやりがいを感じています。「退職して毎日なにをして過ごすのか」と問われました。ナオキさんは「家事全般を引き受けて主夫として家庭を支える」と約束することで説得し、会社を去りました。
退職直後は、毎朝の通勤や終わりのない業務から解放された喜びに浸っていたといいます。しかし、その解放感は長続きしませんでした――。
「サラリーマン、辞めるんじゃなかったよ…」
日々のタイムスケジュールがなくなったことで徐々に昼夜逆転の生活へ移行し、朝は昼近くに起床。スマホで株価や資産推移を眺めながら日中から飲酒を始めることが日課となり、夕方にはほろ酔い状態で寝入る毎日に。妻と約束していた夕食の準備も怠るようになり、デリバリーやスーパーで買ってきた惣菜で済ませる日が増えていきます。深夜0時ごろに一度目が覚めると、冷蔵庫を漁って夜食を食べながらゲームをしたり、動画をしたりしながら寝落ち。一度、物音で妻を起こしてしまい、注意されてからはしぶしぶイヤホンをつけるようにしました。
外出する機会がなくなったことで身だしなみへの頓着も失われ、髭は伸び放題、何日も同じパジャマで一日中過ごす状態になりましたが、本人には生活を改める気力が湧きません。
妻からの「せめて外出して体を動かすなど、生活リズムを整えてほしい」という度重なる注意も聞き入れず、自堕落な生活を続けた結果、決定的な破綻が訪れます。
ある日、妻から「これがあなたの望んだ自由なのか。家の中で酒を飲んでいるだけの姿には失望した」と言い渡され、妻は娘たちを連れて自宅を出て行きました。
後日、代理人弁護士を通じて離婚および財産分与に関する連絡が届いたことで、ナオキさんはようやく事態の深刻さに直面することになります。
「会社員という日々の縛りがあったからこそ、自分は最低限の規則正しさを維持できていたのだと痛感しました。退職して自由を得たはずが、自分自身をコントロールする軸を完全に失ってしまいました。もう一度やり直せるなら、どんな形でも再就職して社会との接点を取り戻したい」