高齢の夫婦が互いに支え合いながら暮らす「超老老介護」。介護する側も高齢であるため、自宅での生活を続けるには住環境の整備も重要になります。しかし、多額の費用をかけて家を改修することが、ベストな選択だったとはいえないケースも。ある男性の事例から、老後資金と住宅改修、在宅介護の難しさを考えます。※本記事に掲載している事例は、プライバシー保護および情報の一般化のため、実際の相談事例をベースに一部の数値や設定を変更・再構成したモデルケースです。
超老老介護の現実…79歳夫「認知症の妻のために」と650万円で自宅をバリアフリー改修も「こんなはずじゃなかった」と後悔したワケ ※写真はイメージです/PIXTA

「これで家で暮らし続けられる」認知症の妻のために650万円

「妻が安心して暮らせるようにしたかったんです。まさか、こんなに早く施設に入ることになるとは思いませんでした」

 

神奈川県内に住む高橋博さん(79歳・仮名)は、妻の幸子さん(77歳・仮名)が介護施設に入居した後、自宅の改修を振り返ります。

 

夫婦が暮らしていたのは、築35年の一戸建て。幸子さんは数年前に認知症と診断され、次第に日常生活で手助けが必要になりました。以前は1人でできていた着替えや入浴にも、博さんの付き添いが欠かせなくなっていきました。

 

自宅には玄関の段差や、浴室と脱衣所の境目など、移動の妨げになる箇所がありました。博さん自身も足腰の衰えを感じ始めており、妻を支えながら生活を続けることに不安を覚えていたのです。

 

「できるだけ長く、この家で2人で暮らしたい。転んでけがをしたら大変ですから」

 

そこで博さんは、住宅の大規模な改修を決断しました。玄関や廊下の段差を解消し、浴室やトイレを使いやすい仕様に変更。手すりを設置し、生活動線も見直しました。工事費用は総額650万円。老後のために蓄えてきた預貯金を取り崩して支払いました。

 

工事が終わると、博さんはこれで安心して介護を続けられると考えました。妻の転倒リスクを減らし、自分の負担も軽くできる。住み慣れた家で暮らし続けるための支出だと受け止めていたのです。

 

しかし、改修後、幸子さんは新しくなった家の中で戸惑う様子を見せるようになりました。家具の配置や使い慣れた場所が変わり、トイレへの行き方がわからなくなることもあったといいます。

 

認知症の人は、環境の変化によって不安や混乱を感じる場合があります。住み慣れた場所や日課を保つことは、安心して生活するうえで大切です。ただし、今回の改修が認知症の進行を招いたと断定することはできません。症状そのものの進行や身体機能の変化など、複数の要因が考えられます。

 

博さんも、妻のためにと考えて決断した改修が、必ずしもその後の介護生活を保証するものではないと、次第に実感するようになります。