2026年10月、「カスハラ対策」義務化…未対応のクリニックが今すぐ整えるべき「患者対応ルール」【社労士が解説】

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2026年10月、「カスハラ対策」義務化…未対応のクリニックが今すぐ整えるべき「患者対応ルール」【社労士が解説】
(※画像はイメージです/PIXTA)

2026年10月1日から、医療機関を含む事業主にカスタマーハラスメント(カスハラ)対策が義務づけられます。国内の公表事例をもとに、小規模クリニックが職員を守るために整えるべき「患者対応ルール」を社会保険労務士が解説します。

ネット中傷から処置中の暴力まで…国内事例が示す「医療カスハラ」の実態

福岡市医師会の2023年調査では、回答した医療機関の50%(190件)が患者等からの迷惑行為を経験していました。暴言やネット上の中傷、居座り、長時間電話などは、通常診療にも影響します。

 

愛知県が紹介する大規模医療機関では、暴言、採血時の引っかき、性的言動が発生し、一人で対応させない方針と警察を呼ぶ基準を設けました。

 

厚生労働省が紹介する神奈川県立がんセンターでは、医療メディエーター、月1回の検討会議、既存の報告システムを活用して早期相談を促しています。「担当者の我慢」から「記録・共有・組織判断」への転換は、小規模院にも応用できます。

 

カスハラによるトラブルは、診療の継続や人材確保、他の患者の安全を左右する経営課題です。

2026年10月義務化へ。クリニックが負う「カスハラ対策」の法的責任

2026年10月施行の改正労働施策総合推進法により、職員を雇うクリニックにも、カスハラから就業環境を守る措置が義務づけられます。発生を完全に防ぐ「結果責任」ではなく、体制の整備と適切な運用が求められます。

 

厚生労働省の指針では、職場で行われる①患者・家族など顧客等の言動で、②業務の性質等に照らして社会通念上許容される範囲を超え、③職員の就業環境を害するものがカスハラに当たります。電話やネット上の言動も含まれ、3要素すべてを満たすことが必要です。

 

待ち時間や説明への不満を一律にカスハラ扱いせず、痛み、不安、障害特性、認知症にも配慮し、内容・態様・回数・時間・危険性や説明の経緯から判断します。

 

義務となる措置は5区分・10項目です。主な内容は次のとおりで、患者向けポスターだけでは足りません。

 

・方針と対処内容の周知
・相談体制の整備
・事後の迅速かつ適切な対応
・特に悪質な事案への対処体制
・プライバシー保護、不利益取扱いの禁止

 

措置を講じない場合は、厚生労働大臣または都道府県労働局長による助言・指導・勧告や報告請求の対象となります。厚生労働大臣の勧告に従わないときは、その旨が公表されることもあります。

患者対応の「5つのルール」…小規模院でも回る「最小構成」の作り方

小規模クリニックでは、限られた人員でも実行できるよう、次の5つのルールを整えましょう。

 

1.院長の方針と判断基準を明文化する

院長は「正当な意見には誠実に対応する一方、社会通念上許容されない言動から職員を守り、一人で対応させない」と宣言します。そのうえで、暴行、危害を示す発言、人格否定、性的言動、居座り、執拗な要求等と、交代先・対応終了の目安を簡潔なガイドラインとしてまとめます。厚生労働省や一部の労働局の規定例・周知例を参考に、自院向けに調整して全職員に周知します。

 

2.初動を「確認・警告・終了」の三段階にする

初動は、①緊急性の確認と要望の聴取、②対応可否の説明と中止要求、③担当交代、電話終了、退去要請、警察・弁護士への相談の三段階に整理します。「暴言が30分以上」という愛知県事例の院内基準は、法定基準ではありません。自院の人員や診療への影響を踏まえて時間・回数の目安を定めます。ただし、暴力や生命・身体への危害が切迫する場合は段階を踏まず、安全確保と110番を優先します。

 

3.一人での対応をやめ、合図と役割を決める

受付から見える合図、内線、呼び出しボタンなど、助けを求める方法を決めます。一人は同席・記録、院長は医学的説明と対応終了、別の職員は他の患者の誘導を担当します。診察室では出口をふさがれない位置を取り、危険物になり得る物を手の届く場所に置きません。

 

4.記録・相談・被害後のケアを一体で整える

日時・場所、発言・行為、継続時間、目撃者、自院の説明・警告、緊急性、次回の対応方針を記録します。録音・防犯カメラの利用目的、保存期間、閲覧者、医療情報の管理も定めます。相談担当者と不在時の代行者・外部相談先を決め、プライバシー保護と相談等を理由とする不利益取扱いの禁止を周知します。被害後は休憩、担当変更、受診等につなぎ、必要に応じて医師会、医療勤務環境改善支援センター、警察、弁護士、社労士に相談します。

 

5.患者向け方針と応招義務を切り分ける

患者向け周知は法定義務ではありませんが、院内やホームページで、暴力があった場合や、説明・中止要求後も暴言・長時間拘束等が続く場合は、対応終了、退去要請、警察への通報等を行うことがあると示すのは有効です。ただし、掲示だけで一律に診療を断れません。

 

厚生労働省の2019年通知は、診療しないことの判断では緊急対応の必要性が最も重要とし、診療と無関係な苦情を繰り返すなど信頼関係が失われた場合は、新たな診療を行わないことが正当化され得るとしています。今後、新たな診療を行わないことや他院紹介を検討するときは、病状、診療時間内外、自院の診察能力・設備、代替可能性、信頼関係、説明・警告・記録を確認して個別に判断します。

職員を守る仕組みが、クリニックの「診療」を守る

カスハラ対応を職員の我慢に委ねず、早期報告、複数対応、記録、組織判断につなげることが重要です。判断基準や役割を共有し、短いロールプレイで動きを確認しましょう。正当な意見を受け止めながら職員と他の患者を守り、診療を続けるために、患者対応ルールの整備が重要です。


 

 

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著者:岡 佳伸

岡佳伸事務所/特定社会保険労務士

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